それぞれの想い

ジンオウガ・ナルガクルガ・ティガレックスハンターオオナヅチキリンオトモアイルー
※ 相手選択で飛びます。


▼ ジンオウガ・ナルガクルガ・ティガレックス

はオレっちのことが好きだと思う!」

と、唐突に言い始めたのは岩の上で寝転がっているティガレックスだった。
木の実を食べていたジンオウガは顔を上げ、翼の毛づくろいをしていたナルガクルガは「は?」と各々が反応を示す。

「だってそうだろ! 毎回オレっちの事を追いかけて旧砂漠に来てくれるんだぜ! 渓流に居るお前らなんかにゃ眼中にねぇんだろうな!」
「旧砂漠に来るからってお前に会いに来てるとは限らねーんじゃねーの?」
「いーや、オレっち目当てだね! 今度アプトノスの肉でも用意しておいてやるかな。そしたらもーっとオレっちにメロメロだろ!」
「あのクソ猫オトモに殴られるに一票」
「オレはブーメランで尻尾切られるに一票」
「非モテ野郎共が僻むな僻むな」

渓流に集まる3体のモンスター。
ジンオウガ、ナルガクルガ、ティガレックス。
暇なのか遊びに来たらしいティガレックスは蜂蜜を隅っこで食べていたアオアシラに向かって「お前もそう思うよな!」と話しを振る。
急に指名されたことに驚いたアオアシラはそのまま逃げてしまった。

「ッチ。乗りわりー奴だなぁ」
「そりゃ普段いねーモンスターに話振られたら逃げるっしょ。バカだろお前」
「……の匂いがする」
「は? まじ? 流石わんわんお」
「やっぱオレっちの匂いを辿って来てくれたっつーことだな!」

翼を広げ、大きく息を吸うとティガレックスは咆哮した。
まるで自分は此処にいると主張するように。

「馬鹿野郎! お前の声はうるせーんだから音量考えろよ!」
「やべ……興奮してつい……」
の匂いが遠ざかっていく。クソ猫に気がつかれたかもしれないな」
「お前のせいじゃねーかよ!」
「遠ざかったなら近づけば良いじゃねーか! おっ先にー!」

飛び上がったティガレックスに続いてナルガクルガも「てめぇ!」と後を追う。
残されたジンオウガはため息をつきながら「単純なバカ共め」と呟く。

*****

「渓流は久しぶりですね」
「最近ティガレックスに邪魔されて任務が思うように進まなかったのが原因ですにゃ」
「あれはあれで面白かったですけどね」
「こっちはいい迷惑ですにゃ」

ガーグァが産み落とした卵の大きさを測り終えたはガーグァにその卵を返した。
久しぶりの水の音に耳を澄ましながらフィールドを散策していると旧砂漠で何度聞いたか数えられない聞き覚えのある咆哮が聞こえてきた。

「ティ、ティガレックスさん……って渓流に居ましたっけ?」
「大方3バカトリオで集まっていたんでしょうにゃ」
「3バカトリオ……ですか?」
「ティガレックス、ナルガクルガ、ジンオウガの3匹ですにゃ」
「発見報告が同時期だった方々ですね。賑やかそうですね」

クスクス笑うには危機感が全くなかった。
何も警戒することなく進んでいく主人にため息をつきながらオトモアイルーはその後を追う。
ファンゴ達が駆け回るエリアを通り過ぎ、蜂蜜が採れるエリアに入るとフサフサの尻尾を左右に振るジンオウガがそこに居た。

「お久しぶりです、ジンオウガさん」
が来る事は匂いで分かったぜ。で、相変わらず生意気なクソ猫は健在、と」
「一言多いにゃクソ犬」
「まぁまぁ。今日は蜂蜜を採取するのが目的で来ました。少しばかり頂きますね」
「あぁ。邪魔者は追っ払っておいた。おっと、もう一匹居たか。小さくて見えなかったぜ」
「てめぇの目は節穴なのかにゃ? さっき私のことをクソ猫って認識したのにもう忘れたのかにゃ」
「お二人とも。仲良くしましょう。」

ばちばちと火花を散らす二人に苦笑いしながらは蜂蜜が滴る木の元にしゃがんだ。
その側で座りながらの匂いをクンクンかぐジンオウガの頭の上に座るオトモアイルー。

「ご主人様に何かしたらただじゃおかないにゃ」
「そういうお前こそに迷惑かけてねーだろうな」
「お前じゃないからそんな事しないにゃ」

せっせと蜂蜜を採取用のカップに詰めていくは「お二人共仲良いですね」と言うと「良くない!」と綺麗にハモる。
蜂蜜の採取を終えたは倒れているユクモの木の上に腰掛け、その足元でジンオウガは丸くなって寝ながらオトモアイルーとじゃれ合っている。
しかしその幸せな時間も長くは続かない。
クンと鼻を鳴らしながらチっと舌打ちをするジンオウガに「どうしたんですか?」と聞いた時だった。

「オウガー。何処にも居ね」
「居た!! 居るじゃねーか此処に!」

ティガレックスの言葉を遮ってナルガクルガが叫ぶ。
ジンオウガはゆっくりと頭を上げ、もう戻ってきた仲間にフンと鼻を鳴らした。

「テメェがが遠ざかったって言うからこっちは孤島まで行っちまったじゃねぇか!」
「オレは最初から渓流だろって言ったのに素直に聞かなかった奴はどこのどいつだよ!」
「ならオレっちを止めろよ!」
「お前すぐじゃがいも投げてくるからこえーんだよ!」

目の前で繰り広げられる言い争いを見ながらおにぎりを食べていると「場所を変えるぞ」とジンオウガが提案する。

「私は此処でも良いんですけどね」
「ご主人様にこれ以上見苦しい場面は見せられないのにゃ」

そそくさとオトモアイルーとはジンオウガの背中に乗り、ジンオウガは走り出した。
それに気がついたティガレックスとナルガクルガは「あ!」と声を上げる。
背後から「待てクソ犬!」だとか「! オレっちの方が早いぜ!」と聞こえてくる。
は振り返りながら「頑張ってくださいねー!」と言うと、二匹の目が赤く染まった。

▼ ハンター

たまには良いかと思い、はハンター達の交流の場である酒場に来ていた。
日頃は報告レポートに追われ、顔を出すことはないが気分転換も兼ねて参加してみることにしたが、参加早々に自分には合わないと感じていた。
チャラそうな男性ハンターに囲まれ、は正直困っていた。

「そんな貧相な装備じゃモンスターにやられるぞ! 一緒に狩りに行って装備を整えないかい?」
「いや、私はこれで……」
「笛使いなら便利だな! 今度パーティーに参加してくれよ!」
「いえ、これは飾りみたいなもんで……」
「おーい! 誰か酒持ってこーい!」

周りの視線が非常に痛く、どうしたものかと考えていた。
こんな事になるならオトモアイルーを連れてくれば良かったと思うが、肝心の頼れる相棒は生憎ギルドの会議に呼ばれてて不在だ。
チビチビとノンアルコールのドリンクを飲んでいると一人のハンターが声をかけてきた。

?」
「あら。珍しい人と会いましたね」
「久しぶりだな。レウスの調査を一緒にやっていた時以来か?」

レウス装備に身を包んだ男は他の男達を押しのけての隣に座った。
以前この男性ハンターとはレウスの調査をしていた時にペアを組んでいただけにもやっと気兼ねなく話せる相手が現れて内申ホッとした。

は今どんなモンスターの調査をしているんだ?」
「今は古龍です」
「ほぉ。最近上がってる古龍の生態情報はの手柄ってわけか」
「そんな……まだまだ私は半人前ですよ。それにしても、古龍は面白いですね。愉快な方々ばかりです」
らしいや」
「貴方は?」
「俺は今レウス希少種の調査をやってるよ」

希少種と聞いての目が輝いた。
目撃例も亜種と比べて少なく、出会えることが稀なモンスターに知識欲が刺激された。
どんな性格なのか、大きさはどれくらいなのか、火力はどれくらいなのか。
質問は尽きなかった。
徐々に酒場からも人は減り始めたが、それでもと男は楽しそうに会話を弾ませていた。

「凄いです! 希少種! 私も会ってみたいです!」
「運もあるからなぁ。今度任務に行く時、一緒に行くかい?」
「是非! まだ希少種とは出会ったことがないので、会ってみたいです!」

そんな時、会議を終えたオトモアイルーが酒場に入ってきた。

「……ご友人ですにゃ?」
「あら、会議お疲れ様です。以前私が一人で活動していた時にペアを組んでくださった探索の先輩です」
「やぁ。君が噂に聞くのオトモかい?」
「どんな噂が流れているのか知りませんがその節はご主人様がお世話になりましたにゃ」
「噂通りのお固くて賢いオトモだね。俺のオトモとは大違いだ」

男は笑いながら手を差し出した。
オトモアイルーは観察するように男を見ながらその手を握った。

「モンスターの生態を知ることがハンターの仕事って言葉、今でも忘れません」
「そう。生態を調べて、どんな生き方をして、どんな風に自然界を維持しているのか知るのは楽しいだろ?」
「そうですね。みなさん性格も違いますし、自然界の広さを知る事が出来ます」
「これからもの活躍を楽しみにしているよ」
「今度希少種の報告書、読んでみますね」
「あぁ。良い出会いだった。これからも、調査対象は違えどモンスターの生態を知り、自然界を良いものにアシストしていこう」

は小さく頷き、明日も任務があるからということで酒場を後にした。
家までの帰り道、オトモアイルーは「不思議な男でしたにゃ」と言うとは笑った。

「私がこの道を進むきっかけをくれたお師匠様ですからね」
「……えっと、その」
「どうしたんですか?」
「ご、ご主人様の……か、彼氏……とかでは、ないんですかにゃ?」

俯きながら聞いてくるオトモハンターを見ると、心なしか耳と尻尾が垂れているように見えた。

「あの方には心に決めた方が別に居ますよ」
「へ!? そ、そうなんですかにゃ!?」
「そうですよ。あの人には、人間もモンスターも同じ物に見えていますからね」
「? どういう事ですかにゃ?」
「オトモさんがもう少し大人になったら教えてあげますね」

フィールドに出るのが怖かったに手を差しのべてくれたのがあの男だった。
ハンターとは討伐が全てじゃない。
モンスターのことを理解し、共存できる道を探すのがハンターだ。
それを体で示してくれたのはあの男だ。
一緒に生態調査に行っている時、あの男の近くには常にリオレイアが居た。
ギルドの連中は”モンスターは危険だ、討伐しなくていけない”と言うが、そんなことをしなくても良い二人を見て、もいつかはそう思えるモンスターと心を通わせられたらと願っていた。

▼ オオナヅチ

森丘での任務は久しぶりで、ははしゃいでいた。
久しぶりに会うモンスター達の頭を撫で、道中で見つけた珍しいキノコはちゃっかとりカバンの中へ。
楽しそうに辺りをキョロキョロすると違ってオトモアイルーは背後を警戒していた。

エリアを変えてもその背後の者は出てくる気配が無かった。
業を煮やしたオトモアイルーは「ご主人様」と呼びかける。

「どうしました?」
「ストーカーがおりますにゃ」
「ス、ストーカー? 何処にですか?」
「……あそこですにゃ!」

オトモアイルーは背負っていたブーメランを思い切り一本の木に目掛けて投げた。
何も見えないのにブーメランは何かに当たったかのように弾かれ、それと同時に「痛い!」と少し甲高い声が聞こえた。
オトモアイルーには見えているのだろうか、一目散に追いかける。

「良い加減姿を現すにゃ!」
「痛い! 痛いからやめて!」

何もない空中に向かってオトモアイルーは尻尾を振り回していた。

「分かったから! 待ってよ!」

その言葉を聞いてオトモアイルーは胸を張りながら「早くするにゃ」と言う。
ゆっくりと霧が立ち込め、一瞬にして二人を包み込む。
最初は見え辛かった視界が、徐々に目が慣れてきたのか見えるようになってきた。
薄紫の皮膚と、尖った鼻先とギョロギョロ動く大きな目。

「オ、オオナヅチさん……でしたか」
「そうだよ。とお話ししたいけど他のハンターが居たら迷惑だと思ったからずっと背後から見てたんだ。今日も可愛いね!」
「それを世間ではストーカーって言うにゃ。覚えておくが良いにゃ」

短い前足を合わせながら姿を見せたオオナヅチはしょんぼりと肩を落としていた。

「でも、と話したいって思ったのは……本当だよ?」
「大丈夫ですよ。こうして霧の中に隠れていれば他のハンターさん達には見つかりませんよ」
は優しい! どっかのチビ猫とは大違い!」
「……その鼻折ってステルス状態を解除してやっても良いにゃよ?」
「ひぃっ!」

古龍としてハンター達に知れ渡る霞龍のオオナヅチは自分よりも小さなの背後に隠れた。
「あんまり怖がらせるのは可哀想ですよ」と言われてオトモアイルーはふんっと背中を向けた。

「で、私に何か御用ですか?」
「うん。あのね、キリンに聞いたんだ。人間ってすごーくすごーく生命が短いからすぐ腐るって。それって本当?」

衝撃的な言葉にもオトモアイルーも目を点にした。

「く、腐る……ですか?」
「うん。確かそんなこと言ってた。でね! が腐っちゃう前に仲良くしておかないとボクのこと忘れちゃうんだって!」

バサバサと翼を広げ、オオナヅチはオロオロとしながら頭を振る。

「ボクそんなの嫌だよ! ボクはが好き! だからもっともっと仲良くなりたい! 忘れちゃうなんてイヤだよ! はボク達を置いて居なくなっちゃうの!?」

自分の言葉に不安を抱き始め、大きな翼が荒ぶり辺りの霧が晴れ始める。
危ないと思ったは咄嗟にオオナヅチの手を撫で、宥めようと試みるが暴走してしまったオオナヅチはその手を振り払った。

「キャッ!」

風圧で吹き飛ばされたに変わってオトモアイルーが飛び出した。

「ご主人様になんて事するにゃ!」
「やだやだやだ! イジメないで!」
「黙れこの腐れカメレオンもどきが! 私の手で討伐してやるのにゃ!」

力を込めたブーメランを投げると、そのブーメランが鼻にヒットし、鱗が剥がれ落ちる。
痛みに顔を歪ませたオオナヅチは鼻を隠しながらその場から立ち去ろうとしたがオトモハンターがそれを許すわけがなく、ブーメランを連続して投げた。
貫通性能の高いそのブーメランは容赦無くオオナヅチの体を貫いた。

「痛い……痛いよぉ……」
「わ、私は大丈夫ですから止めてあげてください!」
「しかしご主人様。こいつはご主人様を傷つけようとしたにゃ」
「ちょっとよろけただけです! オオナヅチさん大丈夫ですか?」

隅っこで丸くなっているオオナヅチに近づき、落ち着かせるように「私は居なくなりませんよ」と優しい声で話しかける。
鼻を破損したオオナヅチは涙を流しながら「本当?」と聞く。

「キリンさんが仰るように人間の寿命と言うのはオオナヅチさん達と比べるととても短いです。ですが、だからって忘れるわけじゃありません」
「……はボクのこと好き? 怪我だって……させたのに」
「私はみんなが大好きです。こうしてお話しするのも、感情をぶつけてくれるのも、私を認めてくれている証拠だと思っています」
「うぅ………………」
「偉大なる古龍なんですから、もっと自信を持ってください」

はオオナヅチが泣き止むまでずっと小さな手を撫でていた。

*****

「今回の任務……なんて報告するにゃ?」
「どうしましょうか。オオナヅチさんは感情的ってところですかね」
「それ報告になるのにゃ?」
「書き方次第ですかね。私の腕の見せ所です」

任務からの期間中、馬車に揺られながらはオオナヅチから貰った4つ葉のクローバーを眺めていた。
「長生きのお守りあげる!」とプレゼントされたそれを見つめながらは「慕われるって良いですね」と言葉した。

「私もこの仕事を後何年続けられるのか分かりませんが、モンスターさん達にとってはあっという間の時間なんですよね」
「否定はしないにゃ」
「きっと生きている間に何十人もの別れを見てきたんですよね」
「……それは」
「私はこの仕事を続けている限りは、みんなの想いに出来るだけ応えたいです。だからまた会いに行きましょうね。そして人生を楽しみましょう」

ガタンガタンと揺れる車内に沈黙が訪れ、はゆっくりと目を閉じた。
そんな主人を見て、オトモアイルーのも体を丸めて眠った。

▼ キリン

「少し出てきますにゃ」と断りをに入れてからオトモアイルーは古代林を走っていた。
すれ違いざまに小型モンスターが「今日はと一緒じゃねーのか?」と茶化すが一切無視してひたすら目的地へと向かって走る。
目指すは深海シメジが映える最深部。
ぴょんぴょんと飛び越えながら最短ルートで進む。

一回も止まらずに走ってきたからかオトモアイルーは肩で息をしながらすやすやと体を丸めて寝ている古龍を見つめた。
誰も寄せ付けないようにするためか、体の周りをピリピリと放電させていたがお構いなしにオトモアイルーは近づいた。

「キリン。起きるにゃ」

呼ばれたキリンはゆっくりと顔を上げて眠たそうな目を開いた。
目の前に座っている小さな動物を見て欠伸をした。

「……誰かと思えば……のところの猫殿か」
「変な噂を流してるのは本当かにゃ?」
以外の者には興味がない。帰るんだな」
「にゃー! 起きて欲しいにゃー!」

また眠てしまいそうな雰囲気にオトモアイルーは大きな声を出し、尻尾で前足を叩いた。

「主人も連れずに猫殿が私に何の用だ」
「……最近モンスターの行動がおかしいのにゃ」
「何故それで私の所に来る。モンスター達の頭がおかしいのは今に始まった事じゃないだろう」
「ちょっと言い方酷すぎにゃいか?」
「古龍として何百年も生きているとアオアシラのように毎日毎日蜂蜜だけ食べているのは阿呆のする事だと思えてくるものさ」
「き、聞かなかった事にするにゃ」

ふぅとため息をつくキリンの思いもよらないカミングアウトにオトモアイルーは若干引いていた。

「で、何が聞きたい」
「……任務中にモンスターが絡んでくることが多いのにゃ」
「そんなのいつもの事だろう」
「しかも色々ガラクタを押し付けてくるにゃ! ご主人様が迷惑がっているのを気づきもせず毎回毎回変な物を押し付けてくるからこっちは困ってるにゃ!」
「ほう」

プンプンと怒りながら話すオトモアイルーをつまらなそうな顔をしながらキリンは聞いていた。

「そのへんの雑魚をとっ捕まえて聞いてみれば揃いも揃ってキリンが”人間は贈り物に喜ぶって教えてくれた”って言うもんだから元凶はお前だろって話にゃ! 大体あいつらの考える贈り物って何か知ってるにゃ?! 虫! 種! 野菜! 蜘蛛の巣! あぁああ! ご主人様も優しいから部屋に飾ったりしてて余計な物がどんどん増えていくのにゃ! どう責任取ってくれるにゃ!」

だんだん話していてむかついてきたのかヒートアップしていくオトモアイルーは最終的に背負っていた獰灼炎のブレイニャーでキリンの頭をポコポコと叩く。

「なるほど。それで私の所に来たわけか」
「そうにゃ! 今すぐガラクタ贈りを止めさせて欲しいにゃ!」
「難しいな。私は同胞の想いは極力尊重してやりたい」
「……どういう事にゃ?」
「皆が好きだ。だが、人間であるは我々よりも先に死ぬ。死なれる前に自分を忘れて欲しくないからどうすれば良いかと私の元にモンスターが訪れた。私は、何か好きな物を贈れば良いと言っただけだ。良いか? お前だけがを好きなんじゃない。皆だ」

その言葉を聞いてオトモアイルーはピンと張っていた耳を垂れさせた。
モンスターも人間も関係なく、別け隔てなく接してくれるはフィールドに降り立てば様々なモンスターが寄ってくる。
触れてくれ、話してくれて、生態や感情を理解してくれようとするは、皆から人気なのは知っていた。

「人間の生命は短い。私達の100%の想いが伝わる前に人間は朽ちる。それぐらい人間というのは儚く、弱いんだ」

優しく諭すように言いながらキリンは前足でポンっとオトモアイルーの胸を蹴る。

「伝えられるうちに想いは伝えておくものだぞ猫殿」

ゆっくりと立ち上がったキリンはヒヒンと鳴いて頭を振った。去ろうとするキリンの背中に向かってオトモアイルーが「キリンは、ご主人様に伝えたのにゃ!?」と聞くと、キリンピタリと止まって振り返った。

「伝えるわけがないだろう。私の想いは重すぎるからな」

そう言ったあと、キリンは尻尾を振りながら森の中へと姿を消した。

▼ オトモアイルー

目を覚ますと「どうして任務に行ったんですにゃ!」と相棒であるオトモアイルーに怒られた。
オトモアイルーがギルドに呼ばれている間、は探索に出かけていた。
その出先でイビルジョーと遭遇し、逃走を試みたがその間に背中と手首を打撲してしまい、帰りの馬車の中で意識が飛んでしまった。
気が付いた時には家におり、目の前で怒っているオトモアイルーに苦笑いを浮かべた。

「ひ、一人でも大丈夫かと……ゴルトリコーダーもありますしね」
「結局任務は失敗と聞きましたにゃ」
「……まぁ。そういう事もありますよね」

アハハと笑う主人にオトモアイルーは頭を抱えた。
どうして自分の戦闘レベルを理解しないで危険なフィールドに行くのか。

「なんでそんな無茶を……」
「条件が揃うのは今日しかなかったんです」
「条件……?」
「雲ひとつない晴天。その時に珍しい美味しいキノコが採れるんです。そしたらイビルジョーさんも狙っていたみたいで」
「何でそんな……」
「オトモアイルーさんと食べたかったんです」

ニコっと笑う主人にオトモアイルーは呆れた。
たかがキノコのためだけに危険なフィールドに行く。
その理由が一緒に食べたかったからと。
つくづく人間の考える事は分からなかった。

「私はご主人様に何かあっては嫌ですにゃ」
「大丈夫ですよ。ラッキーの塊ですから!」
「……命に変えても守ると誓ったのですから、私の見ていないところで何かあっては嫌ですにゃ。もう、その体に他の傷をおって欲しく無いのですにゃ」

はとっさに肩に手を当てた。

「あの日、モンスターもハンターも関係なく襲っていた私を止めてくれたのはご主人様ですにゃ」
「あの時は……何があったのか聞きたくて無我夢中でした」
「もう無茶は止めてくださいにゃ。でないと私の命がいくつあっても足りませんにゃ」

オトモアイルーはポシェットの中から袋を取り出した。
綺麗に咲いた、ここでは絶対に見かけられない異国の花・ガーベラ。
予想外の品には目を丸くし、花とオトモアイルーを交互に見た。

「ご主人様の命は限りがありますにゃ。あとどれくらいかなんて事は私には分かりませんにゃ……」
「そうね……」
「私はご主人様の命が尽きるまでオトモで居たいですにゃ。だから無闇にその命を縮めよとしないでくださいにゃ」
「はい……」
「だから、早く良くなってまた一緒に任務に行きましょうにゃ」

ぴょんとベッドに飛び乗りオトモアイルーはの頬をペロリと舐めた。

2020.08.03 UP UP
2021.08.17 加筆修正