小さなありがとう
ジン・ムゲン・ふう(サムライチャンプルー)/リューク(デスノート)/みゆき・北乃マミ(哭きの竜)/イルミ(ハンターハンター)/アマツマガツチ(モンスターハンター)
※ 相手選択で飛びます。
▼ ジン・ムゲン・ふう(サムライチャンプルー
珍しく綺麗な布団が用意され、豪華な食事が目の前に並ぶ。いただきますの挨拶の前にムゲンが手を伸ばし、それをフウが静止するのは何時もの事だ。
「ってぇな! 何すんだよ!」
「あんたねぇ! 誰のおかげで今日はこんな豪華なところで一晩過ごせると思ってるのよ!」
「誰って……そりゃだろ? っつーわけで、もーらいっ!」
「ったくもう! もっと感謝の気持ちってものを持ちなさいよね!」
目の前で繰り広げられる夫婦漫才のような光景には笑いながら隣に座ってお茶を啜るジンを横目に見る。
伏せられた目はムゲンとフウのやりとりに呆れているようにも見えた。
いつもと変わらない日常。
旅に同行するようになってから色々あったが、いつまで続くか分からない旅に少しだけは寂しさを感じていた。
この度が明日も続くとは限らない。
それなら少しでもいいから貢献出来る事をしよう。
そう思ったはダメ元で昼間に遊郭で幼い頃から叩き込まれた舞を披露し、観客から小銭を集めたのだった。
「しっかし、お前にあんな特技があったとはよ。明日もまたやって稼ごうぜ」
「何言ってんのよ! にばっかり負担かけさせるなんて絶対反対!」
「じゃぁお前に出来んのかよ?! が稼げるなら稼げば良いじゃねぇかよ!」
「今日は女子! 明日は男子! 女子に食わせてもらおうなんてダメ男が言うことだからね!?」
「……美味い」
「わ、私は! この旅が続くなら……な、何でも良いんだけどね」
誰もが口をしなかった”この旅が続くなら”に以外の動きが止まる。
「私は、この旅に参加出来て嬉しかったし、今も凄く楽しい。始まりがあるんだから終わりもあるだろうけど……まだまだ皆と一緒に居たい。だから……出会ってくれて、私を旅に誘ってくれて、ありがとう」
感謝の言葉をいつ言えなくなるのかも分からない状態だからこそ出てきた感謝の言葉。
その言葉にフウは目を潤ませ、ムゲンはため息を吐き、ジンは小さく笑った。
「普段こういうことって恥ずかしくてなかなか言えないけど、い、言う時かな……って思ってその」
「わ、私だって! 皆と旅が出来て楽しいし、えっと、それに!」
「わーったわーった! いいからもう食おうぜ!」
「あー! それ私が狙ってた海老!」
「まったく。忙しない奴らだ」
「でも私達にはそれぐいがちょうどいいのかも、ね?」
「……そうかもしれないな」
方や二人は海老を取り合い、方やもう二人は湯のみを小さく合わせた。
言葉には出さないが、この旅がまだまだ続くようにと。
▼ リューク(デスノート)
死神界で暇を持て余していたリュークは下界を覗いていた。スカスカに乾いた林檎を頬張りながら下界で味わったジューシーな味を思い出しながら一人の人間を観察する。
リュークが見つめるその視線の先には首から骸骨のネックレスを下げた人間の女が居た。
「ようリューク。まぁた飽きもせずにあの女を見てるのか?」
「おう。日課だからな」
「日課? そんな生産性のない事してねぇでさっさと仕事しろよな」
「良いんだよオレはこれで。アイツが生きてれば、オレはそれで満足だ」
「リューク……お前下界に行ってから変わったな」
「あぁ? そうかぁ?」
「そうさよ。なんだかお前、人間みたいな顔するようになったぜ」
「そいつぁおもしれぇ冗談だわ」
大声で笑うリュークだが、その目は女を見つめたまま。
そんなに気になるなら下界に行ってそいつの前にノートを落とせば良いのにと仲間の死神は思った。
「そういやこの女……リュークが着けてたようなネックレス着けてねぇか?」
「おう。あれはオレのだ」
「なんだよ知り合いかよ。こっちに居て良いのかよ?」
「良いんだよ。あっちはオレのことなんて何一つ覚えてねぇからな」
「は? 何だよそれ?」
「まぁ色々あるってことだ。オレは此処でこうして見てるだけで良いんだよ」
「あ、おい。もう良いのかよ?」
「あぁ。今日の日課は終わりだ。記憶がないあいつがあのネックレスを外すまで、オレは1日1回必ずあいつが生きてる姿を確認する。それがオレからに返せる礼だ」
「なんだかよくわかんねーけど、やっぱりお前、人間っぽいな」
「人間はもっとジューシーな林檎を食うぜ?」
「ジューシー?」
首をかしげる仲間の死神を見ながらリュークは残りの林檎を一口で食べた。
▼ みゆき・北乃マミ(哭きの竜)
「まったくぅ! マミさんってば本当に人使い荒いんだからぁ……」は愚痴りながら缶ビールと酒の摘みが入ったレジ袋を揺らしながら勤め先の雀荘の階段をゆっくりと登っていた。
閉店作業をしている時にやってきた北乃はを見るや否や「あ、ちょっと買い物行ってきて」と言われ、日頃お世話になっている相手だけに文句は言えず、しぶしぶと買い出しに出かけたのだった。
珍しい銘柄のビールだったため、何店舗か回ってやっと見つけたその品物はいわゆる輸入品の高級ビール。
階段を登り終えたは袋から買った物が落ちないように気を使いながら雀荘のドアに手をかけた。
「マミさーん。買ってきましたよー!」
「今よ!」
「ぎゃぁあっ!」
部屋に響いたクラッカーの音に思わず後ずさり、耳を抑えた。
ゆっくりと目を開くと北乃の他に雨宮と竜がおり、3人の手には3個のクラッカーが握られていた。
「な、何ですかね……え? 何ですかこれ?」
「何って、のお祝いじゃない」
「お、お祝い……?」
「そう。ほら、早く入って」
荷物を持つと言う雨宮に「重いですよ」と一言伝えて袋を託した。
北乃と竜はさっさと雀卓の席におり、二人を待っていた。
雨宮が北乃に袋を渡すと中身を配るように伝え、雨宮はしぶしぶといった感じでが買ってきたビールを配った。
「はい。日頃の感謝を込めて、に乾杯!」
「か、かんぱーい……ってこれ、お酒? 私、未成年なんですけど……?」
「おい、北乃。が趣旨を分かっていないぞ」
「やぁね。はそんな馬鹿じゃないでしょ」
「いや、雨宮さんの言うように全く分かってません……」
缶ビールに口をつけながら対面に座る北乃を申し訳なさそうな目で見つめると北乃は言葉を詰まらせた。
「あ、あんたが言いなさいよ!」
「な、何故だ! この主催者は貴様、北乃だろうが!」
「ぐっ……!」
「……北乃から連絡があった」
そこでようやく竜が口を開いた。
「が勤めて1年経つから何かしよう、と」
「あの連絡を貰った時は案外女らしいところがあるもんだと思ったものだ」
「マ、マミさん……」
「あぁもう煩いわよあんた達! さ、さっさと始めましょう! 言っておくけど、今夜は無礼講よ! 無礼講! だから貴女も飲みなさい!」
「はっは! もっと女らしくしすれば男が出来ると言うのに!」
「……雨宮、絶対箱にしてやるから覚えてなさいよ」
いつものやりとりが微笑ましくて、は笑った。
「皆さん、ありがとうございます」
小さな雀荘での出会い。
これからもこんな時間が続くようにと込めて伝えた言葉に3人は笑った。
▼ イルミ(ハンターハンター)
「イルミさんって、はり師出来るんじゃないですか?」「何それ」
洗濯物を畳みながらはふと思った事を言った。
バスタオルを畳み終え、脱衣所に運ぼうとしていたイルミは動きを止めた。
「イルミさんの使う針って人に刺すんですよね?」
「まぁ、針だからね」
「ってことは、はり師が向いてるって事じゃないですか?」
「だから何それ」
「人の体や顔に針を刺してコリをほぐす職業をしている人の事です」
「ふーん。こんなの刺したら痛いと思うけどね」
おもむろにポケットから念能力を纏わせた針を取り出してイルミはまじまじと見つめた。
確かにイルミが持っている針は少々人に刺すには太すぎるものに見えるが、もし細い物も扱えるのなら向いているのではないかと思った。
「人の体の構造とかよくご存知みたいですから、表の世界とかでも活躍出来ると思うんですよね」
「なら試しに刺してみる?」
「え、いや、その太さはちょっと……」
「そもそもこれは殺す為に使ってるからほぐすっていうより歪むと思うよ」
「え……ゆが、む?」
そう言うとイルミは小さく笑って脱衣所へとバスタオルを運んで行った。
は実際にイルミが針を使ってるところを見たことがないため”歪む”と表現されたことに疑問を感じた。
一体あの針に刺された人はどうなってしまうのだろうか。
もしかしたら体がねじ曲がってしまうのだろうか。
考えただけで恐ろしくなり、想像を吹き飛ばすように頭を軽く振った。
バスタオルを置きに行ったイルミが部屋に戻り、ソファに座りながらまじまじとを見つめた。
その視線に耐えきれなくなり、が「何ですか?」と問うとイルミは唐突に言った。
「は普段デスクワークってやつで座りながら仕事してるんだよね」
「そうですよ。パソコンばかり見てるんで肩とかだいぶキテますよ」
「肩が硬いってことだよね。ならさ、こことか刺せば効くのかな」
伸びた手がの肩にふれ、一箇所に人指し指を置いた。
何をされるのかと思い黙っていると、肩に電流が走った。
「いたぁっ!!!」
肩が外れるんじゃないかと思うほどの力。
前のめりになりながら肩に手を置き、涙目でイルミを見上げる。
「な、何するん……ですか……!」
「何って原因と思われる箇所を押しただけだけど」
「だからって急に……ったぁ……本当に痛いです」
「でもどう? 良くなったの?」
「良くなるわけ……あれ?」
肩への違和感が一切ないことには驚いた。
ぐるぐる回してもつっかえるものはなく、スムーズに回せる。
いつもは回すたびにゴリゴリ音がしていたのに今はしない。
確かに痛みは凄かったが、それ以上に快適さが増しておりの顔に笑顔が戻る。
「イ、イルミさん! 凄いです! 腕が回せます!」
「そう。良かったね」
「はい! 凄いですよイルミさん! わー! 感激ですよこれ!」
喜ぶを見ながらイルミは小さく「どういたしまして」と呟いた。
▼ アマツマガツチ(モンスターハンター)
ユクモ村に雨が降り続いて早1ヶ月が過ぎようとしていた。異常気象に村人は悩まされ、小売商売をしている連中には大打撃だった。
別地域で任務に当たっていたは本部の要請で呼び戻され、やっとの思いで故郷の村にたどり着いた時には唖然とした。
「この嵐……まさか……」
川の水は随分増し、賑やかな商店からは人の気配が消えていた。
任務を終えて帰ってきたは事務所兼自宅で荷物を解いていると一人のハンターが駆け込んできた。
ボロボロのユクモ装備を纏ったそのハンターは幼い頃から知っている相手だった。
「! 良かった……帰ってきてくれて……! アマツが、アマツが出たんだ!」
「やはりそうです。何かなければあのモンスターは力を使いません。私が調べてきます」
「すまないな……。帰ってきて早々こんな事になって……」
「アマツの事は私に任せて下さい。では、行ってきます」
必要な物資を担ぎ、は愛用のゴルトリコーダーをひと撫でして自宅から飛び出した。
吹き荒れる風と打ち付ける激しい雨に視界は決して良いとは言えなかったが、足元を確認しながら心当たりのある場所へと向かう。
渓流が流れる木々が生い茂るエリアは風によって葉が乱れ舞う。
滝奥の洞窟には小型のモンスター達が肩を寄せ合いながら避難し、怯えているのが見えた。
渓流を通り、洞窟を抜けると広がる小さなベースキャンプは水浸しになり、風が吹き荒れ、拠点を示す旗が今にも抜け飛んでしまいそうだった。
村人やハンター達からは霊峰と呼ばれるエリアに足を踏み入れた時、全身に鳥肌がたった。
大きく、風を身に纏った浮遊するモンスターがそこにいた。
「アマツ……! アマツマガツチ! 私です……!」
襲いかかる水のブレスを回避しながら戦慄を奏で、風圧完全無効を纏いながらは少しずつ怒れるアマツマガツチへと近く。
容赦無く襲いかかる風を受けながら、真っ直ぐに前を見つめて前へと進む。
「フォォォオオオ!」
「アマツ……落ち着いて! 私ですよ!」
聴覚保護に特化した装備のおかげでアマツマガツチの咆哮で怯むことはなかった。
放たれる水のブレスは脅しで、当たるものではないと分かるとは力強く足を進める。
手を伸ばせば触れられる距離までくると、ゆっくりとはアマツマガツチの顔に触れた。
「私です、アマツ。どうしたというのですか?」
鋭い目がを睨み、体を捻ると強い竜巻がアマツマガツチとを包み込む。
視界が一気に悪くなったが、それでもは触れたとを離すことなく言葉を続けた。
「急にどうしたというのです。それにこの角の傷……教えて下さいアマツ。何があったんですか」
ゆっくりと踏み出し、アマツアガツチの額に自分の額を重ねると静かにアマツマガツチの声が響いてきた。
まるで水のように流れてくるアマツマガツチの声には足が崩れそうになったが、必死で踏ん張った。
「が任務に出た後、村で日照りが続き村人が私に願ったのだ。恵の雨をくれと」
「そうだったんですね。アマツは優しいですね。ですが、何をそんなに怒っているのですか?」
「怒ってなどいない。ただ、が約束の日に戻ってこないが故、嵐を起こせば本部が呼び戻すと思ったまでだ」
「……す、すみません。珍しい古龍と出会って調査に時間がかかりました。それで、その角はどうしたのですか?」
「この角は……私を止めに来た連中が放った矢が当たっただけだ。それよりもが無事で良かった」
「伊達にG級の方々を相手にしてません。この通りピンピンしています。全く……こんな手荒な事をしなくとも私は会いに来ますよ?」
「そうか。なら明日もまた、顔を見せておくれ。お前の顔や、姿が見えないと不安になる」
「お慕いする貴方の為ならば」
「良い言葉だ。お前が戻ってきて嬉しい。では、帰るとしよう」
ふわっと纏っていた風が晴れ、目を開けるとふわふわと浮かぶアマツマガツチと目があった。
鼻先でおでこを突かれ、が小さく笑うとアマツマガツチは大きな体を優雅に翻し、空へと登った。
まるでその姿は昇り竜。
分厚く、暗かった空が一気に晴れ、眩しい太陽の光が大地を照らした。
穏やかな風がの頬を撫で、遠くでアマツマガツチの綺麗な咆哮が聞こえてきた。
昔から嫉妬深く、人間の自分の言葉を聞いてくれる古龍。
被害は少々出たものの草木が吹き飛ぶような力は使わずに村人の願いを叶えようとしてくれたことに感謝し、村へと戻ることにした。