秋!秋!秋!

ニア(デスノート)柳蓮二(テニスの王子様)オトモアイルー(モンスターハンター)ALL(哭きの竜)
※ 相手選択で飛びます。


▼ ニア(デスノート)

「……。これはなんの騒ぎですか」
「ん? Lからゲームのプレゼントがあったから皆でやってるところだよ」
「Lがゲーム……またそんな物を」
「何でも日本では人気らしくて、L自身も捜査の合間にやってるみたいよ」

ニアは前髪で指で弄りながらの横に座る男の子を退かして陣取った。
内向的な性格ではないニアは画面の前に詰め寄る同い年ぐらいの子達を見てため息をついた。
一体そんな物をして何の役に立つというのか、という顔をしているは「おー!メロ上手だね!」と手を叩いた。

! オレまた1位だぜ! これでLと戦えるぜ!」
「凄い凄い! ちょっと危なかったところもあったけど、逆転するんだからメロは凄いなぁ!」

ワイミーズでの上位3名と今度オンラインプレイをしようという話になっているらしく、皆楽しみながらなかなか接点がないLとも機会を得るために無我夢中で遊んでいた。
コントローラーを投げ捨てての足元に抱きついたメロは嬉しそうな笑顔を向ける。
そんなメロに対してニアは大きな黒い目を少し細め、の袖を引っ張った。

「これは……どうなったら勝ちなんですか?」
「相手をより多くステージから落とした人が勝ちなんだって。私もやってみたけど凄く難しいよ」
はこういうの苦手そうだもんな。ま、お前にも無理だよニア」
「……やってみてもない相手に対して随分な言い方ですね」
「だってお前こういうスピード勝負苦手そうじゃん」

抱きつくメロの頭を撫でながら「ニアもやってみたらどう?」とは勧めてみるが本人は乗り気ではないらしく顔を背けた。
他の子供達が順番にコントローラーを持って遊ぶなか、「ちげーよ! そこでガードだろ!」と野次を飛ばす。

「こういうのってe-sportsって言うらしいよ。今はゲームじゃなくて競技として認められてるんだって。凄い時代になったよね」
「ゲームして金貰えるとか最高じゃん!」
「どんな分野でも1位になる人は凄いからね。ワイミーズではメロが1位かな?」
「へへっ! ま、ニアは下手そうだから最下位かもな。Lと戦うのはオレだよ!」
「メロ、少し黙ってください」

前髪を指に巻きつけ、どことなく真剣な目で画面を見つめるニアにが首を傾げる。
なんだかんだでゲームの画面に釘付けになるあたりまだまだニアにも子供の心が残っている事に安心したは「もしかしたらニアも練習したら上手くなるかもよ?」と言うとメロが反発する。

「は!? パズルオタクには無理に決まってんだろ」
「分かんないよ? ウカウカしてると抜かされちゃうかもよー?」
「ならさっき覚えた必殺技見せてやるよ! ニア! お前にはぜってー入力出来ないコマンドなんだぜ!」

また子供達の輪に戻るメロにニアは小さく「脳筋では限界があるのに」と小さく呟いた。
コントローラーを貰ったメロは帽子を被った男の子キャラを早々に選択すると他の子達が選び終わるのを待っていた。

「……メロが1位ってのは何だか癪ですね」
「ならニアもやってみたら?」
「もう少し見てます」

プレイヤーのキャラ選択が終わるとステージがランダムで選ばれた。
足場の少ない場所で皆はキャラクターを巧みに操作をして相手にダメージを入れていく。
ダメージパーセントが蓄積されていくと攻撃を受けた時の反動が大きく、徐々にステージへの復帰が難しくなりメロは次々と攻撃を当ててあっという間に自分以外を画面の外側へと飛ばしていく。
結局またメロの一人勝ちで周りから歓声もあれば、悔しがる声もあがる。
「どうだよ! 見てたか!?」とガッツポーズを見せるメロには手を叩いた。

「ほんとメロ上手だね!」
「だろ? オレに勝てるヤツなんていねーよ!」
「……ジャック。コントローラーを貸してください」

呼ばれた男の子を驚いたように振り向き、持っていたコントローラーをニアに渡した。
初めて見る形状の物にニアは「動かすのはどれですか?」と基本の操作だけを聞くと、ピンク色の球体のようなキャラを選んだ。
何でも初心者向きらしく、身軽なキャラクターらしく女の子達に人気のキャラだ。
それに対してメロはサラサラの髪にマントのような物を装備した爽やかな青年キャラを選ぶ。

「このボタンでジャンプだって」
「手元を見ていたので大丈夫です」

ローディング画面の間、ニアは何かを確かめるようにボタンを押す。
久しぶりにパズル以外の物に興味を持っているニアの姿が嬉しくてついつい老婆心で色々言いたくなってくる。

「ガードをすると良いみたいだよ」
「そうですね。ただ入力と動作に若干のラグがあるみたいなので、先読みが必要かもしれません」
「あ、そうなんだ……」

ゲームが開始されるとニアが動かすピンク色のキャラはその場でジャンプをしたり、しゃがんだりを繰り返してなかなか動こうとはしない。
それをチャンスを見たメロは攻撃をしかけて攻撃を避けられないニアのキャラをあっという間に画面外に追いやる。

「はっ! よえー!」
「……なんとなく分かりました」

カチャカチャとボタンを押しながら自分のキャラが復帰するのを待っていたニア。
その音はまるで”負けず嫌い”のロウソクに炎を灯そうとしている音のように聞こえた。

▼ 柳蓮二(テニスの王子様)

は放課後、図書室で英語の宿題をしていた。
放課後の図書室は比較的生徒が少ない絶好の勉強スポットで一番奥の席はのお気に入りの席だった。
今日もそこに座って英語の教科書とノートを広げるがカリカリとペンが走ったのも最初だけで、和訳問題になると途端にペンが止まる。

「うーん……」

ちらほらと帰り始める生徒を目だけで見送ると、は白紙のノートとのにらめっこを再開した。
こんな時、勉強が出来る彼氏が居れば教えてくれるのにとカップルで勉強しているテーブルに振り返った。
仲睦まじく勉強する姿はの憧れだった。
比較的授業のレベルが高いらしい立海大附属中学に入学を決めたのは幼馴染の存在が大きかった。
最初は県立の中学に進学する予定だったがある日突然「俺が教えてやるからお前も来い」と言い出し、勝手に周りを埋められて血反吐を吐くようなスパルタな勉強を叩き込まれた。
あの頃はまだ男女の意識がなくて、お互いの家にも泊まりに行ったりよく勉強も教えて貰っていたが、テニス部に入って活躍する場所を見つけてしまって以来それもパタリと無くなった。

「はー! わからん!」

悪い癖で問題につまづくとすぐ自分は何の為に立海大付属を受験したのかを考えてしまう。
しかし、そんなことは分かりきっていて、いつの日か芽生えた幼馴染への恋心のためだった。
本当は周りの子達と同じように恋愛を楽しみたい。
いっその事この恋を諦めてしまおうかとついついため息が漏れる。
女心と秋の空。
教科書に顔を埋め、窓から見える空を見ると綺麗な秋晴れの夕日が眩しかった。

「相変わらず此処か」

机から伝わる振動には顔をずらすと目の前には大きな鞄があった。
持ち主は誰かと見上げると幼馴染で”参謀”として名を轟かせる柳蓮二が苦笑を浮かべていた。
この時間は部活に精を出すものが多いなか、柳は制服のままで思わず「……あれ? 部活は?」と聞いてしまった。

「生徒会が長引いてな。弦一郎には遅れると言ってある」
「弦、一郎って……あの怖そうな副部長だっけ?」
「それを本人に言うなよ。結構気にしているからな」

そのまま隣の席に腰を降ろした柳は白紙のノートを見た後、意地悪な笑みで「英語か。教えてやろうか?」と頬杖を付きながら首を傾げる。
数年前ならその言葉に泣いて飛びつくが今は状況が違う。
柳のファンが多いのは入学してから数ヶ月で身にしみて分かった。
どこから嗅ぎつけてきたのか”幼馴染”という言葉に女子生徒は過剰に反応し、少しでも何かあると呼び出されていた事を多分柳は知らない。
変な誤解のせいで柳に迷惑をかけては部活も学校生活も楽しめないだろうと思ったは呼び慣れた名前呼びも封印した。

「自分でやってみる。皆待ってるでしょ? だから柳も部活行きなよ」
「昔のお前ならすぐ俺に泣きついてきたのに。寂しいもんだな」

そう言って本当に寂しそうな表情をするが恐らくそれも計算の内だろう。
は苦戦していた和訳問題に再度向き直り、唸りながら単語を辞書で調べる事を繰り返した。
また小さな声で「うーん」と唸るを見ながら柳は「夏目漱石は”I love you”を”月が綺麗ですね”と訳したそうだ」と唐突に言い出した。

「……でもそれって都市伝説なんでしょ? 柳がそんな迷信信じるなんて意外だよ」
「だが風情があって俺は良いと思う。、お前ならどう訳す?」
「どうって……んー……」

考えた後つい本音が漏れてしまった。

「”何時までもあなたの隣に居たい”……とか、ど、どう、かな」

表情一つ変えない柳に冷や汗が出る気がした。
柳の顔が見れないのとなんとなくじっとしていられなくてはごまかすように「やっぱり訳って難しいよ!」と笑いながら教科書のページを無意味に捲った。

「なかなか良いんじゃないか」

柳は鞄を持って立ち上がると「勉強頑張れよ」と言った。

「あ、う、うん。……柳も部活、頑張ってね」
「あぁ」

は白紙のノートを見ながら片手をひらひらと振る。
そんなに柳は小さくため息をつくと「ちなみに俺なら」と切り出した。
ふいに顔を向けると少し呆れた表情をしている柳と目があった。

「”また名前で呼んで欲しい”」
「え、な、何それ……」
「やはり遠回しじゃ分からないか」

柳が「一度しか言わないからな」と言った後、の耳に口を寄せた。

「”俺の隣はお前だけだ”」

思わず耳を抑えて身体を引いた。
諦めかけた恋が息を吹き返す。
女心となんとやら。

▼ オトモアイルー(モンスターハンター)

渓流での探索任務を終えるためにベースキャンプへと戻ろうとした時、はふと振り返った。
目の前に広がる紅葉した木々が揺れ、風に靡いて散る葉が幻想的で思わず「綺麗ですね」と呟いた。

「毎年見ている光景ですにゃ」
「そうですけど、この風がこの木々の揺れは今年だけの景色ですよ」

その場で立ち止まりはゆっくりと目を閉じた。
聞こえる音、感じる気温、匂う草木の香り。
毎年同じかもしれないが、微妙に違う。
足元に落ちた葉を一枚拾い上げるとその葉をオトモアイルーの頭に乗せた。

「歳を取ると感じることが徐々に変わってくるものです」
「どういう意味ですにゃ?」
「私も多分……去年までは”毎年見ている景色”と思っていたと思いますが、今はなんだか感傷深く感じます」
「かんしょうぶかく……ですにゃ?」

少々オトモアイルーには難しい言葉だったのか、小首をかしげると頭に乗っていた葉がはらりと落ちる。

「毎日が特別な日のように思えるんです」
「なんだか哲学な匂いがしますにゃ」
「そうですね……例えばこのアオキノコです」

は岩の側に生えているアオキノコの前でしゃがむと指を指した。

「もしかしたら来年は……いえ、明日は生えていないかもしれません」
「モンスターに食べられるからですにゃ?」
「それもありますが、ハンターさんが取ってしまうかもしれませんよね。そう思うと、今見ている景色は今日しか見れないものかもしれません」
「……なんだか難しい話ですにゃ」

頭を抱えて唸るオトモアイルーを抱っこすると「にゃ!?」と驚いた声をあげた。
それでも腕の中で大人しくしているオトモアイルーを抱っこしたままはゆっくりと葉が散る渓流を歩き出した。

「こうして出来ることも、明日は出来ないかもしれません」
「ご主人様……」
「来年もこのように葉が舞うとも限りません」
「ご主人様は……何を考えているんですにゃ?」

不安そうなオトモアイルーの大きな瞳にの笑みが映る。

「何も」
「にゃ?」
「ただこうして、今日出来ること、今出来ることを出来るうちにしているだけです」
「明日も出来ますにゃ!」
「そうでしょうか? 帰る前に獰猛化したイビルジョーさんに会ったら手も足も出ませんよ」
「え、縁起でもないことを言わないでくださいにゃ!」

毛を逆立てるオトモアイルーの頭をゆっくりと撫でながら岩場に腰掛けるとゆっくりと降ろした。

「自然に囲まれて、任務をして、季節を感じるのは当たり前かもしれませんが、今日という日が明日も同じとは限りません」
「まぁ……自然ですからそれは致し方ないことですにゃ」
「今ある自然をキープするのが私みたいな調査をメインにしているハンターの仕事ですが、それでも限界はあります。今見ている景色が明日も全く同じとは限らないので、毎日が特別な日に感じるわけです」
「ふむぅ……ご主人様は時々不思議な事を言いますにゃ」

ひらひらと舞う葉を見つめながらは小さく笑った。

「秋というのは不思議ですねよ。夏は人を元気にさせてくれますが、秋はクールダウンさせてくれます」
「私は暑くてヘロヘロでしたにゃ……」
「あの暑さも今年だけで来年はもっと暑くなるかもしれませんよ?」
「それは嫌ですにゃ!」
「そう思うと今年の夏は今年だけのものってことになりませんか? ほら、なんだか特別な気がしてきましたよね」
「にゃうぅう……」

いまいち納得していないオトモアイルーの頭を撫でながらは空を見上げた。
水色の空には雲ひとつない。

「いつか分かる日がきます。それは、来年の今日のような日かもしれませんね」

少し肌寒い風を全身で感じながらはゆっくりと目を閉じた。

▼ オトモアイルー(モンスターハンター)

夏の日差しもすっかり影を潜め、肌寒い風が吹き始めて失っていた食欲が徐々に目を覚まし始める季節がやってきた。

「やっぱ秋と言えば、食欲の秋ですよね」

久しぶりにお客が居ない店内でいつものメンバーが集まっていた。
集まっていたと言っても誰かが呼びかけたわけではなく、自然と集まったに近しい。
異様な雰囲気が店内に漏れるのか、雀士である3人が居合わせると大体ノーゲスになることが多かった。

「……焼けたはまるで焼き魚ね」
「日焼け止め塗ったのに焼けちゃいました。でも、海楽しかったですね! 来年も是非行きましょう!」
「遠慮しとくわ」
「そう言わずに! またスイカ割りしましょうよ! マミさんの豪快なスイングを来年も見たいです!」
「スイカの代わりに雨宮を……って話しなら乗るけど?」
「な、なんだと!」

モップ掛けをしながら卓の席に座っている北乃と話すの会話を黙って聞いていた雨宮だったが思わず口を挟んだ。

「どうして俺がスイカの代替え品にならなければならんのだ!」
「叩きやすそうな頭してるからよ」
「ぐぬぬ……! それなら竜も同じだろう!」

シレっと答える北乃に梅宮は待ち椅子に座りながら煙草を吸っている竜を指差した。
その横でみゆきが「それは止めた方が……」と苦笑いをしていた。

「嫌よ。後が怖いじゃない」
「なら俺は良いと言うのか!?」
「そうよ。あんた帰りの車内の雰囲気忘れたの?」
「ぐっ……!」
「そうですよ! 頑なに”入らん”とか言う竜を皆で無理やり海に放り投げた後の阿修羅なオーラを放つ竜を忘れたんですか?」
「も、元はと言えばと北乃がやろうって言い出したことだろうが!」
「でも雨宮さんめっちゃ良い笑顔で竜の背中押してたじゃないですか! 同罪ですよ同罪!」
「そうよそうよ」

傍観者2人と頑なに海に入る事を拒否していた竜を落とした罪のなすり付け合いをしているとカウンターで頬杖をついていたテツが盛大なため息を着いた。

「良いっすよねー! 皆は海でエンジョイして……。オレなんてあの日店番っすよ?」
「運が無かったって事よ」
「お前が来たところで座る席は無かったがな」
「オレだってあにき達とどこか行きたいですよー!」
「嫌よ。もうあの海で散々だわ」
「ぅええぇえ!? マミさんそりゃないっすよー!」

泣き真似をするテツに北乃は「お得意のナンパでもして行けば良かったじゃない」と言うとテツは「あにき達と行きたいんですよぉ!」と叫んだ。
はその話の輪から気配を消すように抜けて、ダイレクトメールを保管している箱を探しに持ち場を離れた。
その行動を見ていたのは竜だけで、煙草を消すと「逃げるぞ」とみゆきに小さく言った。
「え?」と困惑するみゆきだったが、竜に言われては従うしかない。
持っていた竜のジャケットを本人に渡すと「私達はこれで」とみゆきが言いかけた時、店の奥からの声が響き渡った。

「ねぇねぇねぇ! これこれ! これ! めっちゃ良いのがお店に届いてたんだよ! 見て見て!」

一枚のチラシを手に持って満面の笑みを浮かべているにみゆきとテツ以外が嫌な顔をした。
は皆の真ん中に立つと一枚のチラシを見せた。

「ビアガーデン! 行こうよ!!! 皆店でダベってるぐらいなんだから暇でしょ!? 今日行きましょう!」

チラシをテツに見せて2人で盛り上がる中、竜は慌てるみゆきの腕を引きながら店を出ようとしたがそれをが見逃すはず無かった。

「竜。来ないと家の服全部アロハシャツに替えるからね」

キラキラと輝くの目は有無を言わさない輝きを放っていた。


2020.10.12 UP
2021.08.16 加筆修正