チョコの行方

オトモアイルー(モンスターハンター)竜・雨宮・北乃(哭きの竜)イルミ(ハンターハンター)
※ 相手選択で飛びます。


▼ オトモアイルー(ハンターハンター)

「ご主人様! バレンタインって何ですにゃ?」
「バレンタイン、ですか?」

クエストの受注ボードを見ていたにオトモアイルーはとあるクエスト依頼を指差した。
そのクエスト名は”ハッピーバレンタイン! ギルドから感謝を込めて”と書かれていた。
報酬はガーグァの金の卵10個とマボロシチョウの羽で作られた特性の栞だった。
太っ腹な報酬に対してのクエスト依頼内容はアオキノコ10個の納品で誰でも簡単にクエストを達成出来るようなになっているらしく、周りのハンターはこぞってそのクエストを受注していた。

「あぁ。バレンタインとはバレンタインデーの事ですよ」
「どういう意味ですにゃ? クエストの内容と報酬の差が凄くあるように感じますが……」
「確かに金の卵とマボロシチョウの羽で出来た栞とはだいぶ豪華ですね。プレゼントに使えってことでしょうか?」
「プレゼント?」」
「バレンタインデーとは元々は好きな人にチョコレートをあげて気持ちを伝えるって風習でしたが、今はお世話になった人とかにもあげるのが定番化していますね」
「お世話になった人……ですにゃ?」
「そうですよ。なかなか感謝の気持ちを伝えられない人にとっては願ったり適ったりなイベントってわけです」

「この栞はプレゼントに、金の卵はデートの軍資金と言った所でしょうか」とクエストを見ながらは大きく頷いた。
オトモアイルーはそんなを見ながら大きくジャンプをした。

「ご主人様! 受けましょうにゃ!」
「え?」
「ボクはその、栞が欲しいですにゃ!」
「……オトモさんが何かを欲しがるなんて珍しいですね。分かりました。私たちもブームに乗りましょうか!」

はオトモアイルーを抱きかかえて早速受付へと向かい、アオキノコ狩りへと出発した。
行き慣れた渓流の頭は地図に入っており、どのポイントにアオキノコが生えているかなどモンスターの生態調査を生業としているにとっては容易いクエストだった。
岩場に生えているアオキノコを丁寧に取りながらはオトモアイルーに振り返った。

「もしかして、栞はあの猫ちゃんにあげるんですか?」
「あの猫……?」
「えぇ。私の先輩が連れていたオトモさんですよ。この前仲良く話していたじゃないですか」
「あ、あれはただ……向こうが話しかけてきただけですにゃ!」
「ふふっ。照れなくても良いですよ。オトモさんにお友達が出来る事は大賛成ですからね」

10個目のアオキノコを採取用のカバンにしまうとは立ち上がった。
取ったアオキノコをベースキャンプの納品ボックスに入れればギルドの迎えが来る。
日が暮れる前に帰ればガーガァの卵を使った料理も作れそうでは「よーし! 今日は先輩も呼んで楽しみましょうか!」と笑った。
ウキウキでベースキャンプへと向かうの背中を見ながら「やれやれにゃ」とため息を吐きながら追いかけた。

その日の夜、新鮮な肉や卵を使った料理で先輩ハンターとオトモを招待し、小さな宴を楽しんだ。
の体に酒が程よく回った所でオトモアイルーは輝くマボロシチョウの栞を恥ずかしそうにに渡した。
最初は戸惑いを見せたが、受けたっとそれを見ながらは満面の笑みで「ありがとうございます」とお礼を言うと、「俺も貰ったぜ。相棒からな」と懐から同じ物を取り出して見せた。
二人で笑い合う姿を見てオトモアイルーは日頃の感謝と主人であるの中に眠る恋が少しでも進む事を祈ってゆっくりと目を閉じた。

▼ 竜・雨宮・北乃(哭きの竜)

前まではぼちぼちの人数の客しか来なかった雀荘も人で賑わうようになったのはのおかげと言っても過言ではない程の繁盛具合を昼間から見せる中、北乃は手持ち無沙汰になった手を誤魔化すかのように扇子を扇いでいた。

「そろそろバレンタインデーよね」

隣の万年無口のライバルである竜に静かに話しかける。
それを拾うのが竜の反対側に座る雨宮の光景はいつもの日常と化していた。

「ふんっ。あんなのは製菓会社の陰謀だ」
「ならには雨宮は”いらない”って言ってたって伝えておくわね」
「だ、誰もいらないとは言っていないだろ!!!」
「あら? そう聞こえたけど? ねぇ、竜」
「あぁ」
「お前ら! こんな時だけ協力するとは卑怯だぞ!!!」

立ち上がって二人を指差す雨宮を他所に忙しなくフロアを動き回って客の話に付き合うを見ながら北乃は扇子を閉じた。

「ねぇ。あげるのか聞いてみない?」
「何を」
「チョコよ、チョコ。誰にあげるのか聞いてみましょうよ」
「当然俺だろうな!」
「あんたはいい加減邪魔だから座りなさい」
「邪魔とはなんだ!」

文句は言うものの雨宮は渋々といった様子でソファに腰掛け、北乃は袖口で額を拭うを呼ぶ。

「マミさん何ですか?」

すぐに北乃達の元に来たは首を傾げながら三人を見る。
卓の準備の事を聞かれるかと思ったは「あ、すみません! ご覧の通りまだ満席ですよねぇ……」と先に答えるが、北乃からは違う質問が飛んできた。

「そんな事じゃないわ。ねぇ、もうすぐバレンタインデーよね」
「はぁ……そういえば、そうですねぇ」
はチョコを誰にあげるのかしら?」
「チョコ?」

予想していなかった質問には目を丸くさせながら聞き返してしまった。

「そうよ」
「チョコなら大泉さんにあげますよ」

北乃達に衝撃が走る瞬間だった。
予想外の答えに北乃は「は?」と鳩が豆鉄砲をくらったような顔になり、竜は無言で煙草を吸い、雨宮が「誰だそいつは!!! 俺は知らないぞそんな奴!!!」と立ち上がる。
それぞれ違う反応をする3人には少々困ったような顔をしながら「な、何ですか? あげちゃダメなんですか?」と慌てる。

「駄目に決まってるじゃない。よりによって何であんなポッと出の男なのよ」
「待て待て待て! そもそもそいつは誰なんだ!?」
「いけすかない関西人よ」
「いけすかないって……大泉さんはい、良い人、ですよ……?」

の何気ない一言に北乃の目が釣り上がる。

「ちょっと! 何懐柔されてるのよ! いつの間にそんな仲になったって言うの!?」
「え、えぇ……? この前お店に来てくれた時に飴を貰っただけですよ? 忙しそうだからって……あ! マミさん達には日頃お世話になってる分ちゃーんと別な物を用意してありますからね!」

がニコニコ笑う反面3人の表情は険しい。
何処か納得していない表情を浮かべる北乃に雨宮が「おい、北乃! どいういう事かちゃんと説明しろ!」と指を刺す。
竜は手前を通る腕にゆっくり触れて下させると小さく北乃の名前を呼んだ。

「大泉を呼べるか……?」
「今?」
「あぁ」
「……勿論よ!」

閉じていた扇子が華麗に開く。

「む? 大泉とか言ういけすかない関西人は打てるのか? と言う事は挨拶程度にまずはの目の前で不様に卓に沈んでもら」
「もしもし? 私よ」
「俺を遮るな!!!」

真剣な顔つきで電話し始める北乃に雨宮が吠える。
何が何だか分からないは首を傾げながら一人だけ冷静に事の成り行きを見守っている竜に「竜、どういうこと?」と聞くと、竜はいつもの静かな口調で一言「子供は知らなくて良い事さ」とはぐらかして口元だけで笑って見せた。

▼ イルミ(ハンターハンター)

ゴトーの許可を得てキッチンで昼過ぎからチョコ作りを始めたは最後の追い込みをかけるために一息をついた。
これまでは市販の物で済ませてきたが、どうしても今回は手作りで皆に渡したかった。
イルミはもちろん、ゾルディック家の兄弟、両親達、そして執事として面倒を見てくれるゴトーやカナリアにどうしても手作りで日頃の感謝の気持ちを伝えたかった。
学生の時は渡し合いが流行っていてそれなりの量を作っていた経験はあるが、今回ばかりは最高記録を更新出来そうだった。

「後は焼くだけ……と」

オーブンの温度をセットしていると背後から「出来た?」と顔を出したのはイルミだった。
は「後は焼くだけですよ」と振り返って答える。

「ふーん。母さん以外から貰うの初めてだよ」
「え? 今まで貰った事ないんですか? イルミさんなら抱えられないほど貰ってるんだとばかり……」
「ないよ。勘違いされても面倒臭いし」

イルミはオープンの中で温められているカップケーキの器を覗き見る。

「本当に全員分作ったの?」
「勿論です!」
「ちゃんと家族のこと調べた?」
「え?」

唐突な質問には目を点にさせた。

「ミルキはチョコレートアレルギーだよ?」
「え?! ほ、本当ですかそれ!?」
「うん。母さんとじぃちゃんは高血圧だから甘いの禁止で、父親は母さんのしか受け取らない主義なんだよね」
「ちょ、ちょ、ちょっとそれ本当の話ですか!?」

の顔から徐々に血の気が引いていく。
オープンの中に綺麗に並べられている物の中には名前が挙がった4人の分がしっかりある。

「あー、それとキルは小さい頃にチョコで虫歯になったことがあるからチョコに対してトラウマがあるんだよ」
「チョ、チョコロボ君はチョコじゃないんですか!?」
「キルが食べてるのはバナナ味のチョコロボ君ね」
「名前にチョコって入ってるのにバナナなんですか!? なんて紛らわしい……じゃなくて、ど、どうしましょう!! もう焼いちゃってるんですけど……!」

頭を抱えてその場にしゃがみこんでしまったを見ながらイルミは首を傾げた。
「簡単じゃん」と言うイルミを恐る恐る見上げながら「簡単……ですか?」と呟く。

「余ったのはオレが食べてあげるよ」
「イルミさんが?」
「うん。ゴトーとカナリアは今親父に同行してるけど、オレの仕事に合流するから渡しておいてあげるよ」
「でも今日は1件の同行ってゴトーさんが朝礼で……」
「急遽決まった事だから」

そう言われてしまってはこれ以上何も言えない。

「で、でも私が渡さないと……意味が無いような気がするんですが……」
「帰って来るの深夜になるかもよ? それにこういうのって今日中に渡さないとそれこそ意味がないんだろ?」
「そ、それはそうなんです……けど……」

有無を言わさないイルミの目力にはこれ以上何も言えず、最終的には「お願い、します」と俯いた。
結局焼きあがったチョコレート味のカップケーキ全てをイルミに託し、「早めに行って終わらせて来るから」と言うイルミを見送ったのは夕飯前だった。
夕飯の準備の手伝いをするためにキッチンへ戻ると廊下でゴトーと鉢合わせし、夜の仕事の事を尋ねると「朝に今日の同行は1件だっつっただろ」と額を指で弾かれた。
嘘をついた理由を問いただすべく、その日、は寝ずにイルミの帰りを待つことを決めた。


2021.03.08 UP
2021.08.16 加筆修正