夏や暑さをテーマに色々

柳蓮二(テニスの王子様)七海健人(呪術廻戦)ミルキ(ハンターハンター)尾形・宇佐美・二階堂兄弟(ゴールデンカムイ)竜・雨宮・北乃マミ(哭きの竜)
※ 相手選択で飛びます。


▼ 夏は恋の季節:柳蓮二(テニスの王子様)

「そこの君、ちょっと良いか?」
「え? 私、ですか?」

部活を終えたが下校しようと門から出た時、知らない他校の生徒に声をかけられた。
見慣れない制服には眉を寄せながら首を傾げ、「何ですか?」と尋ねる。

「乾貞治という生徒を知らないだろうか」

聞きたくもない名前には一瞬小さく「ゲッ」と言ってしまうとその男子生徒は口元に手を当てながら「ふむ」と零す。
クラスメイトで隣の席の何かと絡んでくる変人、乾貞治と同じぐらいの背丈の男子生徒を見上げながらは後ずさりする。
あの男の友人であれば絶対に変人に間違いない。
の全本能がそう告げる。

「あ、いやー知らないですねぇ。ぜんっぜん知らないです。本当にこれっぽっちも関わりないし」
「嘘は良くないな」

見えてるのか見えていないのか分からない目には一瞬体を強張らせた。
サラサラの髪をなびかせながら確信しているような物言いには一刻も早くその場から立ち去りたかった。

「いや、マジで、本当に知らないです」
「ほう。それは照れ隠しか?」
「いや、照れてないし、あの……え? 何なんですか?」
「……失礼。俺は立海大付属中学の柳だ。乾とは幼馴染でつい最近”彼女”が出来たと聞いたもので見に来たのだが……君がである確率は98%なんだが俺のデータ違いだろうか?」
「でたっ! 気持ち悪いデータ!」
「見た目とは裏腹に言葉は辛辣とは聞いていたが……やはり俺のデータに狂いはなかったか」
「あ……しまった」

は”データ”という言葉に過剰反応してしまい折角スルー出来ると思っていたのに失敗してしまったことに気がつき口元を手で隠した。
柳と名乗った生徒は乾と同じテニス部らしく、データテニスを教えたのは自分だと言い始めは早々に帰りたくなった。

「テニス一筋のあの堅物をどう懐柔したのか教えてくれないか?」
「いや、そんな……懐柔なんて……どっちかって言うと私の方が困ってるんですけど」
「ほう。貞治は草食系だと思っていたが実は肉食系だったのか」
「いや、肉食なんて優しいものじゃなくてただの変態ですよ変態。幼馴染って言うならあのバカに注意してくれませかね?」
「赤点を取り、毎度追試に追い込まれる彼女から変態やバカと呼ばれてるとは……貞治はこの女子の何処が良いんだ?」
「あいつ赤点と追試のことまで言ってるの!? っていうか彼女じゃないから!」

理解し難いという表情をする柳に対してが抗議をあげる。
その様を見ていたクラスメイト達が二人を横切りながら「おーい、バレる浮気はやめとけよー」や「乾君悲しむよ」など言われ、は俯きながら震えた。
それを聞いた柳は「クラス公認なのか」と呟きながら鞄の中に手を入れるのをは見てデジャブを感じた。
柳の鞄の中から出てきたノートを奪うと胸に抱えた。

「おい。人の物を取るのは犯罪だぞ」
「か、勝手にデータ取るのは立派な犯罪!」
「……ふむ。では許可を取れば良いのか?」
「いや、そう言う問題じゃ……っていうか今何でデータ取ろうとしたの!?」
「貞治の話だけでは補完出来ない部分も多いからな。本人に直接会って知り得た情報の方が信憑性は高いだろ?」
「いや、そんな自信満々に言われても……って言うかナニコレ……」

は胸に抱えていたノートをまじまじと見ながら気持ち悪いタイトルが書かれた表紙に嫌悪感を表した。

「書いてあるだろ? 貞治の彼女専用ノートだ」
「だから彼女じゃないって! ただのクラスメイト! ただの隣の席!」

知らないところで勝手に作られている不気味なノートを地面に叩きつけると柳は「そして次に”あんな奴好きじゃ無いし!”とお前は言う」とクスクス笑いながらそのノートを拾い上げる。
大切な物のように柳がその表紙を優しく撫でる様を見て類は友を呼ぶという言葉をこれほどまでにないほどは痛感していた。

「悪いが基本データは既に取得済みだ。他に何か無いか?」
「な、なな、無いよ! ある訳ないじゃん! それ以外にあることの方がおかしいから! 私はただの一般人で本当に面白いネタなんて1ミリも持ち合わせてませんよーだ!」
「それは困ったな。俺はただ今まで一度だって浮ついた話を聞いた事がない幼馴染であり親友の貞治が惚れ込んでいる女子がどんな女子なのか知りたいだけなんだが」
「ほ、惚れ……!? バ、バカな事言わないでよ! ありえないありえない!」

は徐々に体が熱くなるのを感じ、その熱が顔にまで昇るのを見られなくて顔を背けるとポンと肩を叩かれた。

「な、何!? 何なの!?」
「俺にもの事を教えてくれないか?」
「え……あ、え……ちょ……」

優しい手つきがの顎を捉え上を向かされ、閉じてたと思っていた目が少し開いていることに息を詰まらせた。
経験したことのない雰囲気にむず痒さを感じるものの、動かない体にはパクパクと口を動かしてるといつの間にか集まっていたギャラリーから「お? 三角関係か?」や「やだ! ちょっと誰か乾君呼んできて!」という言葉に意識が覚醒した。

「わ、わー!! バカじゃないの!? やっぱり! やっぱり類友でお、お、お前も絶対バカで変態なんだ!」

手を払いのけたあとは柳を指差して大声で叫んだ。

「人聞き悪いな。俺は一度だって赤点は取った事がない」
「そういう意味じゃない! そうじゃない! 勉強が出来るバカって意味! こ、これ以上私に寄らないで! この、バカ! バカバカ!」

は言いたい事を言い終えるとそのまま走って帰った。
取り残された柳は口元に手を当てながら青春学園の校舎を見た。

*****

「貞治も悪趣味だな。意中の相手にちょっかいを出して欲しいと言い出すのは……俺のデータには無かったな」
「嫉妬という感情がこれほどまでに燃えるとは思わなかった。おかげでノートを3ページも更新してしまったよ。それと音声データ」
「は後ほど送ろう。何も教室の窓から双眼鏡で覗くことなかったんじゃないのか?」
「いや、二人の間に入っては面白く無い。手が届かないところにが居るのが良いんだ。しかし蓮二、触れるのは良く無い」
「”だが、想定外の事が起こると途端に女子らしい態度を取るが見れて嬉しい”とお前は思ってる」
「ちょっと違うな。正しくは”見れて悔しいが嬉しい”だ」
「あんな女子の何処が……は野暮な質問だったな」
に関わると俺の中で色んな反応、感情が渦巻くので構うのが止められないんだよ。蓮二もそれが分かったんじゃないのか?」
「あぁ。俺も馬鹿と言われて何とも言えない感情が渦巻いた。こんな逸材が居たとは……独り占めは良く無いな」
「それは蓮二の浮ついた話としてデータに取るが良いのかい?」
「夏は恋の季節と言うだろう?」
も大変になるな。しかし、同じ学校である俺の方に分がある確率は82%」
「”蓮二は他校だからと触れ合えない”とお前は考えるが、遠距離恋愛は障害があってこそ燃えるんだ」

そんな会話が蝉が鳴く蒸し暑い夜に電話で繰り広げられていた。

▼ 本当に怖いのは生きてる人間: 七海健人(呪術廻戦)

七海の仕事の報告電話を横で聞きながらはハンドルを握りしめていた。
徐々に近づく七海のマンションに別の意味で胸がドキドキしていた。
煩く鼓動する心臓を落ち着かせるようにが深呼吸をしていると、電話を終えた七海が「今日は落ち着きがないですね」と呟いた。

「え!? そ、そうでしょうか!?」
「いつも落ち着きがありませんが、今日は特に酷いですね」
「あ、あ、あの!!! わ、わ、私! 実は何か付いてたりとか、しませんかね!?」
「は?」

マンションの前に車を駐車させるとは勢いよく七海に顔を向け、唇を噛み締めながら眉間に皺を作りながら七海の言葉を待つ。
何事かと思った七海は少しだけ首を傾げながら「別に何時も通りの貴女ですよ」と言うと、は盛大な溜息を吐きながらハンドルに被さった。

「良かったぁ……七海さんがそう言うなら間違いないですよね……」
「何かあったんですか?」

は乱れた前髪を直しながら「最近ちょっと、夜になると何かが部屋に居る気配を感じるので」と笑う。
聞けば呪霊のようなイタズラはしないが、何かが部屋にいるような気配がするようで怖いと言う。
仕事がら一般人には認識出来ないような類を相手にしているのにも関わらず何が怖いんだと七海が至極当然のことを言うとは手をバタつかせた。

「いや! だから! 何もしないんですよ? 逆に怖くないですか!? ただ居るだけって怖くないですか!?」
「……逆に何かされたいんですか?」
「そ、そう言う訳じゃないんですけど……でもなんか、ずっと見られてるみたいで怖いんですよ」
「まぁ、この時期はそう言う事もあるでしょう」
「今の部屋って格安だから決めたんですけど、後から調べたらウチって……通り道になってるらしいんですよね。いつもすぐ居なくなるのに、今回はずっと停滞してるって言うか……」

そこまで話しては頭を抱えながら「早く出ていかないかなぁ」と嘆いた。
腕を組みながら七海は小さく溜息を零す。
最近の事ではあるが、七海は伊地知からが自宅には帰らずに高専で寝泊まりをしている事を聞いたが、まさかその原因が夏の風物詩である”盆”が原因であるとは思わなかった。

「だから高専で寝泊まりを?」
「そうなんです……仕事が残ってる時は伊地知さんが一緒に高専に居てくれたんですけど、いい加減家に帰れって言われました。でも、怖いもんは怖いんですよねぇ。高専の人達は優しいので安心でき……そうだ! 一晩だけで良いので、七海さんのお家に泊めてください!」

世紀の大発見をしたかのような表情を見せるに七海は即答で「良いですよ」と答える。
いつもの七海はふざけた冗談に乗らないのを知っているは「へ?」と間抜けな声を出した。

「え? い、今……何と?」
「良いですよ、と言ったんです」
「え!? う、嘘!? 本当ですか!?」
「ただし、見られてるだけじゃ済まないかもしれませんが」
「ん、ん???」
「早く車を出してください。駐車場の場所ぐらい覚えてますよね」

戸惑いを隠せないは首を傾げながら七海を見ると温度を持たない冷たい目に睨まれた。

「ヒッ! あ、あのあの、あの、七海さん……?」
「無防備にも程があるでしょ。そんな貴女には生きてる男の方が何倍も怖い事を教えてあげます」
「いや、待って、あの……伊地知さんは仕事してるだけでしたよ!?」
「御託は結構です。さっさと車を出してください」
「……あ、はい」

は震える手でエンジンを起こすボタンを押した。

▼ 素直じゃない主君の扱い方:ミルキ(ハンターーハンター)

クーラーの設定温度を平均よりも大分下げている部屋でミルキがパソコンをいじっているとノックと同時にドアが開かれて盛大に舌打ちをした。
専属の執事であるの訪問に「だからノックと同時に開けるな!」の言葉に被って聞こえたのが「さぶっ!!!」のの声だった。

「さ、寒すぎませんか!? ミルキ様……とうとう暑くて頭もおかしく……は元からでしたね!」
「一言多いんだよお前はっ!」
「寒すぎるのは体に毒ですよ! 全くもう! 何考えてるんですか!? エロゲの事しか考えてないんですか!?」
「だから! お前は! そういう事を女がデケェ声で言うなよっ!」

は部屋に入るなり早々にエアコンのリモコンを奪い、「おい、止めろ!」と言われたにも関わらずあるボタンを連打した。
ひんやりとした風が徐々に生温いものへと変わり、ミルキは「良い加減にしろよな!」と机を拳で叩いた。
それを冷ややかな目で見るは大きな溜息を吐きながら「良いですか、ミルキ様?」とミルキに詰め寄る。

「ミルキ様の健康管理も私、の勤めで御座います」
「オレの部屋のエアコンの温度を何度にしようがお前には関係無いだろ!!!」
「いいえ! 関係あります! 身体を冷やしすぎるのは良くありません! 私がきっちり室内温度を管理させて頂きます」

ミルキとの睨み合いはいつものことだが、今回ばかりはミルキも強気だった。
の手からリモコンを奪い取り、すぐさま先程まで設定していた温度へと下げるとまた冷たい風が身体に当たり始めた。
一気に冷えだす部屋では腕を摩りながら「またすぐそうやって下げる!」と怒るがミルキは聞く耳を持たない。

「いっつもいっつもウルセェんだよ!! 大体お前はオレの専属だろ!? 黙ってオレの言う事だけ聞いてれば良いんだよ!」
「……分かりました。そこまで言うなら仕方ありません」

もう少し何か言ってくると思ったミルキは身構えていたがやけにあっさりとが引き下がるもんで思わず「は?」と口から出てしまった。
はその場に座り込むと「どうぞお好きになさって下さい」とミルキを上目遣いで見上げる。
勝ち誇った笑みを浮かべながら「分かれば良いだよブス」と鼻を鳴らすが、その30分後には鼻をすすり始めた。
ぐずぐずするのことは最初気にしないようにしていたが、クシャミをしだした所でミルキは「あーー!!!」と叫んだ。

「何なんだよさっきから!」
「……私はお仕えするミルキ様の側に居るだけです。お気になさらずに」
「って言うけどその鼻をすする音が気になって仕事所じゃねーんだよ!」
「今画面に映し出されているのは先週購入されたギャルゲーのようですが?」
「ウ、ウルセェ! さっきまで仕事してたんだよ!」

思わずミルキは表示されていた画面を隠し、を横目で見ながら「寒いなら出てけよ」と言うがは動こうとはしなかった。

「はぁ。お仕えする主人の設定温度にも対応出来ない私は専属失格ですね。寒すぎて風邪引きそうです。あー寒い寒い」
「あ?」
「こんな事で寒がるようでは専属失格です。やはり私では役不足のようですね。早々にシルバ様に専属から外して頂くよう伝えておきます」
「ちょ、おい」
「あー何だか寒気が……熱があるのかもしれません。ミルキ様……申し訳御座いませんが今日は自室へ戻らせて頂きます」

は息荒くさせながら左手を太ももに置いて重心を取りながら立ち上がるとミルキに会釈した。
あまり見せない弱々しい表情にミルキは思わず手を伸ばしての腕を掴んだ。

「お、おい、専属外れるって……どういう事だよ?」
「そのままの通りです。お仕えする主人に合わせられない専属など……意味がありません」
「ま、待て待て! オ、オレは許さないぞ!」
「ミルキ様も……可愛くて文句の言わない執事が良いですよね? 私は少々煩いようなので」

冷気よりも冷たいの目に一瞬だけミルキは黙った。
しかし、此処で逃せばが自分から外れてしまうと思ったミルキは「クソッ!」漏らしながらリモコンを手に取った。

「何度だ!」
「……はい?」
「だ、だから! その……何度に設定すれば良いんだよ!!!」
「……そうですねぇ。最低26度で保ってください」
「は!? 暑くね? 溶けるんだけど」
「ならこの話は無かったことに……」
「だぁあもうっ! 分かったよ! 26度だな! クソ女が! 今度専属外れるとか言ってみろ……その前にぶっ殺すからな!」

ミルキが太い指で温度を26度にあげるのを見てはニヤリと笑いながら「ミルキ様に殺されるなら本望です」と太ももに触れる。
そしてしなやかな指がバンドで挟んでおいたボイスレコーダーの録音停止ボタンを押した。

▼ 夏の新人へのイタズラ: 尾形・宇佐美・二階堂兄弟(ゴールデンカムイ )

月島の代わりに食堂の鍵を閉めようとが扉を開けると4人の男達が一斉にの方を向く。
珍しい面子に面食らい、は戸締りをするので退室して欲しい事を伝える前に、好奇心から「何してるんですか?」と尋ねていた。

「これはこれは、男と偽って実は女である軍曹補佐殿ではありませんか」
「お、尾形さん!……他の人に聞かれてしまいます! あと私は軍曹補佐ではなく二等卒です!」
「あはは。ちゃん、上官には”上等兵殿”を付けないと嘘がバレるよ」
「宇佐美……上等兵殿もからかわないでください! 私が女であることは……鶴見中尉殿と月島軍曹殿を含めて貴方達だけなんですから……」

はキョロキョロと辺りを警戒しながら声を潜めて人差し指を唇に当てた。
それを見ていた二階堂兄弟がコソコソと「皆知ってるのに今更は何を言ってるんだろうな、浩平」「なぁ洋平。本人はその事を知らないみたいだし、それはそれで見ていて面白いからこのまま内緒にしておこう」と内緒の話をするが勿論その声はの耳にもしっかりと届いていた。

「に、二階堂さん!? み、皆知ってるってど、ど、どう言う事なんですか!? い、いつバレたって言うんですか!?」
「嘘嘘。皆知らないさ。なぁ浩平?」
「洋平の言う通りで皆知らない。他の連中はを男で補給しか出来ないお荷物二等卒としか思ってない」

ニヤニヤと笑う二階堂兄弟には「ちょ、ほんとどっちなんですか!?」と持っていた食堂の鍵を振り回した。
兄弟とのやりとりを見ていた尾形から「で、何か用があったんじゃないのか?」と聞かれ本来の目的をは思い出した。

「あ、そうでした……あの、私、此処の戸締りを月島軍曹殿に言われて来たんですけど」

そう言うと四人は顔を見合わせたあとを不思議な目で見つめる。

「お前……それ本気で言っているのか?」
「え? な、何がですか?」
「月島軍曹は今日の朝から鶴見中尉と一緒に外出してて戻るのは明日の朝だよ?」
は本当に月島軍曹から頼まれたのか? 怪しいよな洋平」
「あぁ怪しい。この時間に月島軍曹がこの兵舎に居るわけがないもんな。が見たのはもしかしたらアレかもしれないな浩平」

4人の神妙な表情にの喉がゴクリとなる。
しかしは確かに月島から戸締りを頼まれ、鍵まで託された。
それが月島でないと言うのなら一体誰だと言うのか。
いつものふざけた表情じゃない4人に顔を引きつらせながら「じょ、冗談止めてください……」と言うのがの精一杯だった。

「そ、そういう話をしてると本当にそ、そ、そういうのが集まってくるんですよ!」
「新入りのお前には先に此処の秘密を教えておくべきだったな」
「この兵舎は8月になると新米兵にイタズラをするお化けが出るんだよ」
「え……ちょっと、待ってくださいよ……」
「確か行方不明になった奴も居たとか」
「おまけに狙われるのは非力な兵士ばかりだとか」
「ちょ、ちょちょちょ、ちょっと待ってください皆さん!」

は4人の話を遮り、「し、静かに!」と制止する。
かすかに聞こえる足音にが眉間を寄せるが、他の4人には聞こえてないのか首を傾げている。

「あ、足音がします!」
「気のせいじゃない? 百之助聞こえた?」
「いいや、俺には何も聞こえなかったがな」
「そ、そんな……二人には聞こえましたよね!?」

名指しされた二人はゆっくりと首を横に振る。
確かに近づいてくるような音が聞こえるのに聞こえているのはだけの現状には「う、嘘だぁ……」と狼狽える。
徐々に近付いてくる音に合わせての鼓動も早くなり、宇佐美は頬杖をつきながら「お化けが迎えに来たとか?」と笑う。

「え、えぇ……」
「おやおや。うちの二等兵はとんだビビリと来たもんだ。これじゃこの先戦争が起こっても生き残れませんなぁ」
「え? 本当に聞こえないんですか?」

誰も信じてくれず、クスクスと笑われるは後ずさりした。
近づく足音には振り返り、生唾を飲み込み奥歯を噛み締めた。
食堂の前で止まった足音には頭を耳を押さえながらしゃがみ「うわぁあ! 待って待って! 命だけは!」と叫んだ。

「……戸締りにいつまで時間をかけているつもりだ」

塞いだ耳にかすかに届いた落ち着きながらも呆れているような声には固く閉ざした目を開けた。
そこにはひょこっと顔を出し、呆れた表情を浮かべる上官の月島が居た。
はすぐに後ろを振り返り、笑いを堪えている尾形と大笑いしている宇佐美と二階堂兄弟を睨みつけた。

「……明日の配膳、覚えててくださいね」

尊敬する月島の前で赤っ恥をかかされたは持っていた食堂の鍵を力強く握りしめた。

▼ ラムネの魔法:竜・雨宮・北乃マミ(哭きの竜)

「あぢー」とうちわを仰ぎながらは雀荘の開店準備をしていた。
効いてるんだか分からないエアコンを睨む気も起きず、は椅子を並べ、客に提供するおしぼりの確認したところでどさりと客用のソファに腰を下ろした。
革張りのソファは肌にくっつきなんとも言えない不快感があるが、この暑さの中でキビキビと働く体力はに残っていない。
開店までの30分はにとって息の休憩時間となる。

「ほんっとうにあづいー……」

重たい瞼が閉じかけた時、店のドアが開き買い出しに行っていたマスターが戻ってきたのかと思い背筋を伸ばした。
しかし顔を出したのは見知ったメンバーだった。

「やぁね。貴女なんて顔してるのよ……」
「マミさん……」
「蒸し暑さで腑抜け切ってる貴女に差し入れよ」
「え……?」

扇子を仰ぎながら店に入ってきた北乃はビニール袋をの顔の前に突き出した。
ガラスが擦れるような音には首を傾げながら「何ですかぁ?」と袋を受け取ると中身を見て目を輝かせた。

「え!? ラムネですか?!」
「そうよー。本当はビールが良いと思ったんだけど……貴女はまだ未成年よね」
「いやーめっちゃ嬉しいです!!! 喉乾いて死にそうだったんですよー!」
「そう。良かったわね、竜」
「え? 竜?」

何食わぬ顔で後から入ってきた竜は何も言わずに店のドアを閉めると「マスターは?」とに尋ねる。

「あ、マスターならまだ買い出しだけど……え? マミさん、どういうこと?」
「ふふっ。私達これから1勝負に行くんだけど、その前にのところに寄るって行ったらわざわざ竜ったら」
「北乃」
「はいはい。に渡せたからもう行くわ。お仕事頑張るのよ。また夜にでも迎えに来るわ、竜が」
「……北乃」
「はいはいはい! じゃあね

汗で濡れているだろうにも関わらず北乃はの頭を撫でるとウィンクを飛ばす。
ビニール袋には三本のラムネが入っており、予想するにとマスターとテツの分だろう。
また噎せ返るような暑さの中に行こうとする二人を呼び止め、は駆け寄った。

「あら、何よ?」
「これ、あ、開けて欲しいです」
「貴女開けれないの?」
「あー、開け方が……分からないと言うか……」
「これだからお嬢さんは困るのよねぇ。竜、開けてあげなさいよ」

”何で俺が”という態度で竜は煙草の煙をくゆらせる。
それでも女性二人の圧力に負けた竜は渋々からラムネが入った袋を受け取ると、さっさとラムネのビー玉も押し込む。
炭酸の弾けるよな音とビー玉がガラスにぶつかる音は夏の匂いがした。

「有難う竜! はい、竜、マミさん。持って持って」
「……これは貴女とマスターとテツの」
「良いから良いから。はい、かんぱーい!!」

何が何やら分からない二人はに合わせるようにラムネの瓶をカチリと合わせあった。
暑い室内で冷えたラムネが喉を通ると体がスっと冷たくなるのを感じた。
思わずの口から出た「あぁあ~!!」という声がやけに渋く、北乃がそれを笑う。

「いやー、やっぱり炭酸って皆で飲むと美味しいですねぇ」
「私達は油を売ってる時間は無いんだけど」
「なんかこう……隠れてコソコソ飲む炭酸ってワクワクしません?」
「貴女だけじゃない?」
「えー! またこうして隠れて飲みましょう!」
「酒みたいな言い方するんじゃないわよ」

軽くの頭を小突く北乃の横で竜は黙ってラムネに口をつける。

「あら、竜。その着てるシャツが白だったら不良学生が飲んでるみたいよ」
「竜って年齢感じさせませんからねぇ。悪い先輩って感じです」
「なら貴女はカツアゲされてる学生かしらね」
「この場で言ったらパシリにされてラムネ買ってきたクラスメイトって設定が妥当ですよ」
「あらあら。ならサボって賭場にご一緒なんてどうかしら?」
「わー! ワクワクが増しますね、ソレ!」

目を輝かせてラムネを飲むと、話を合わせて楽しむ北乃が一瞬だけ竜には仲の良い学生の先輩と後輩の姿に見えた。
一瞬だけ学生になれるような不思議な気持ちにさせてくれるのはラムネが持つ懐かしくも儚い味のおかげかもしれない。

2021.09.23 UP