哭きの女子会

1回目

その会合はみゆきのある発言から始まった。
それはとみゆきが普段通りに台所に立ち、夕飯後の食器洗いをしている時だった。

「私も……いつもちゃんが話すマミさんって人に会ってみたいな」

切なさを隠した横顔を見ながらは「なら今度ご飯行こうよ!」と何かを閃いた。

*****

「えーっと、では乾杯の前にですね! 自己紹介ですね。みゆきさん、こちらいつもお世話になっているマミさんです」
「どうも。北乃マミです」

真っ赤な扇をパタンと閉じ、北乃はみゆきに微笑んだ。

「マミさん。こちら、いつもお世話になっているみゆきさんです」
「初めまして。竜の家を預かっているみゆきです」

の言葉の後にみゆきは丁寧に頭を下げた。

「あ、私は」
「貴女は良いわ、嫌ってほど知ってるから。それより……みゆきさんにはいろいろと聞きたい事が沢山あるの」
「私幹事なのに!」

北乃はの挨拶を途中で遮り、好奇心の眼差しをみゆきに向ける。
その横で「今回の仲人なのに!」と騒ぐに面倒臭そうな顔をする北乃の二人がみゆきの描いていた想像通りだったのかクスクスと笑みを漏らす。

「お話に聞いていた通りですね」
「ちょっと……家で私の事何て言ってるの?」
「な、何も言ってませんよ! ほら! か、かんぱーい!」
「はいはい乾杯乾杯」
「ふふっ。乾杯」

三人はグラスを軽く合わせ、一口だけそれぞれが頼んだ液体を喉に流し込む。
一人はワイン、一人は麦茶、そしてもう一人はビール。
家で飲むそれとはどことなく味が違うようで、大人二人が美味しさに笑みを浮かべ、はわざとらしく至福の溜息を漏らした。

「で、乾杯も済んだことだし……早速だけど色々聞かせて貰って良いかしら?」
「はい。何でしょうか?」
「みゆきさんは今竜の家に住んでるのよね?」

不敵な笑みを浮かべる北乃に対し、みゆきは頷きながら「そうですよ。二人の帰宅を毎日待っています」と返す。
それに対し北乃は意味深に頷きながら質問を続ける。

「大変ね。一人は五月蝿い小娘で、もう一人は放浪癖のある男だものね」
「あの人に関してはしょうがないと思ってます。でも私にはちゃんが居ますから」
「ふーん。竜とはどういう関係なの?」
「何言ってるのマミさん! みゆきさんも、私も、竜も家族だよ家族。ね? みゆきさん」
「……そうね。家族……ね」

その言葉にみゆきは少しばかり目を細めた。
楽しそうな笑顔の中に少しだけ悲しみを宿した瞳が揺れるのを北乃は見逃さなかった。
北乃は思い出したかのようにの方を向いて口を開いた。

「あぁそういえば忘れてた。さっき雨宮から連絡があって貴女からの連絡が欲しいって言ってたわ」
「え? 雨宮さんが?」

が首をかしげる。

「なんだか急いでるみたいだったわ。これで電話してきなさい」
「もぉ……なんだろう? 中華友の会の話かな?」
「貴女ってば雨宮とそんなの組んでるの……?」

北乃から携帯電話を受けとったは「雨宮さん美味しいお店結構知ってるんですよ」と笑って席を離した。

「じゃぁちょっとお話してきますね!」

邪魔が居なくなったところで北乃はテーブルの上に頬杖をつき、「で?」でみゆきを追尾する。
困ったように笑ったみゆきがこの現状にお礼を言うと北乃はグラスの中の液体を煽った。

「本当はあの子が思っているような綺麗な関係じゃないんでしょう?」
「……本当のところは……私はあの人にとってちゃんの代わりなんです。ちゃんは気がついてないけど……」
「代わり?」
「お恥ずかしい話なんですが、あの人は抱いてはくれますけど……絶対にキスだけはしてくれないんです。そういう関係なんです」

返す言葉が見つからない北乃にみゆきは続ける。

「でも良いんです。竜が私に今の居場所をくれただけでも幸せです。それに私にはちゃんが居るし、妹みたいで……本当の家族みたいで楽しいですよ」
「……それで良いの? 竜の事は諦めるの?」
「諦めるも何も最初から分かっていた事ですから。それに、主に本命が居るのは慣れてるので」

その時、みゆきの笑った顔はやけに晴れ晴れとしていた。
本当に割り切っているようで北乃は少しだけ面喰らった。

「報われたいとは思わないの?」
「良いんです。お屋敷でお爺さんを相手にするよりずっと幸せですから」
「そう……。何となく分かったわ、貴女達のこと。甲斐性無しが好きなアホ姉妹ってね」

北乃はテーブルに置いた煙草に手を伸ばし、火を付けるとみゆきは笑った。

「北乃さん。私もちゃんみたいにマミさんって呼んでも良いですか?」
「好きに呼んだら良いわ。私も貴女のことをみゆきって呼ばせてちょうだい」
「っふふ。構いません。これからもちゃんをよろしくお願いします」

小さくみゆきが頭を下げると北乃は明後日の方向に顔を向け、小さく鼻で笑った。
北乃は煙を吐き出しながら「おてんば娘が帰ってきたわ」と漏らし、みゆきが身体を傾けるとが手を振りながら戻ってきた。

「お待たせさんです」
「アイツから何だったの?」
「いやー特に何もなかったんですけど、次の中華友の会の日程が決まったぐらいです。後、雨宮さんが北乃さんに貸しが一つ増えたって言ってましたけど何ですかね?」

首を傾げながらは乾いた喉を潤すためにグラスに口をつけた。

「さぁ? 何かしらね。それより……貴女が居ない間にみゆきから色々聞かせて貰ったわ」
「あー! マミさんが早速みゆきさんのこと呼び捨てにしてるー!」
「うふふ」

興奮冷め止まぬと、素知らぬ顔で煙草を吹かす北乃。
笑みを浮かべながら二人を見ているみゆき。
三人が集うテーブルに一人のウェイターが近づき、三人衆の間に恐れることなく入っていく。

「大変お待たせ致しました。お料理の方をお持ち致しました」

さぁ、楽しい女子会の始まり始まり。


2013.08.18 UP
2018.07.20 加筆修正
2019.09.17 加筆修正
2021.08.23 加筆修正