哭きの女子会

2回目

みゆきの一言から始まった麻雀に明け暮れる男達に振り回される女子達の憩いの一時、女子会。
笑いや泣き、ときには怒り、そして毎度のことながらあっという間に時が過ぎてゆく。
今宵も三人の女が夜の新宿に集まり、様々な話題に花を咲かせる。

*****

「いやー遅くなりましたぁ!」
「遅いわよ。罰金三百万で許してあげるわ」
「マミさんったら小学生か何かですか!?」
「私以上にあの子遅いけど大丈夫かしらって心配してたのはマミさんよね」
「み、みゆき!」

少しばかり息を切らせたが乱れた髪の毛を整えながら着席すると、直ぐに会話に花が咲いた。
口では意地悪なことを言っていてもなんだかんだでの事を気にかけてくれていた北乃には笑う。
それに対して北乃は真っ赤な扇子を開いて照れた顔を隠した。
既にテーブルの上に運ばれた2本のワイングラスを見るや否や、は近くを通ったボーイを捕まえて麦茶を注文した。

ちゃん。遅くまでお疲れ様」
「ほんっとに遅くなってごめんなさい! なかなか雨宮さんが離してくれなくて……」
「雨宮が?」

の口から雨宮の名前が出た途端、北乃が扇子を閉じて喰いついた。

「そうなんですよぉ。夜送るって言われたんですけど、断ったら何故だの一点張りで……誤魔化すのに苦労しましたよホント」
「……素直に私とみゆきの三人でご飯って言えば良いじゃない」
「いやぁ……これはなんていうか女性陣だけの秘密にしたくて……なんか隠しちゃいました」
「あら。私は女子会のことオープンにしてるけど?」
「えぇええ!? そうなんですか?! な、なら私も今度からオープンにしよっと……」

弾む二人のやりとりをみゆきは黙ったまま聞いている。
みゆきの中では二人が楽しそうに話しているを見ているだけでも満足だった。
だが、みゆきには一つだけ、前から気になることがあった。
麦茶が灌がれたワイングラスをボーイがテーブルの上に静かに置いたと同時にみゆきは「あの」と切り出す。

「雨宮さんって……どんな人なんですか? 確かこの前も汐那ちゃんは雨宮さんとご飯って」
「あぁ雨宮ね」

一番早く反応したのは北乃だった。
北乃は扇子で汐那の頬を突きながら妖艶な笑みを浮かべてみゆきを見る。

「まぁ簡単に言えば竜のライバルみたいな存在よ」

その言葉にみゆきの目が大きく開き、次第に険しい顔へと代わる。

「その人……麻雀は強いんですか?」
「ど、どうかなぁ? 竜のライバルって言うぐらいだから強いと思うけど………」
「悔しいけど私よりかは強いのは確かね」

二人の言葉にみゆきの眉間に刻まれる皺が濃くなる。

「ま、まさか汐那ちゃん……その人とお付き合いとか……」

その言葉に汐那と北乃は顔を見合わせ、同時に吹き出した。
焦るみゆきは続けた。

「だ、だって! 汐那ちゃんいっつもお家で雨宮さんの話ばかりするから!」
「貴女いっつも雨宮の話してるの? もしかして雨宮が好きなの?」
「そ、そんなしてない……っていうか好きじゃないですよ! いや、これは語弊がある言い方ですね?! 雨宮さんはあれです! ただのご飯友達兼お店の常連さんであって打倒竜を掲げる自称麻雀プロですよ!お付き合いとか天と地がひっくり返ったとしてもありえないから!」

雨宮の存在を全否定する汐那にみゆきはほっとし、雨宮の内心を知っている北乃は同情はしつつも笑いを堪えるのが精一杯で微かに肩を震わせた。

*****

ひとしきり笑い、落ち着いた所で北乃はグラスに手を伸ばした。
同じようにみゆきと汐那もグラスに手を伸ばし、3つのグラスが静かにテーブルから浮いた。

「じゃ、みんな揃ったことだし……乾杯といきましょうか」
「そうですね」
「じゃぁマミさんお願いします」
「しょうがないわね」

北乃の乾杯の掛け声でグラスが小さく音を奏でた。
三人は各々が注文した液体を口の中で転がしながら味わう。
静かにグラスがまた置かれると、会話に花が咲き始める。
勿論話の種は汐那と雨宮の関係だ。

「ねぇ汐那。本当に雨宮とは何もないの? 身体の関係も?」
「マ、マミさん!? 身体だなんて……ないない! ほんと何もないですってば!」
「汐那ちゃんダメよ。私の知らない人とお付き合いするのは歓心しないわ。今度合わせてもらえる?」
「みゆきさんも落ち着いて! ほんとないない! だって雨宮さん彼女いるじゃないですか!」

その汐那の一言に北乃は驚いた。

「は?雨宮に……?」
「え? だってこの前プレゼントについて聞かれたんですよ」
「何を?!」
「え……? なんか意中の相手の気を引くにはどんなプレゼントをした方が良いかって……あれ? 彼女じゃないんですかね?」

考えながら麦茶を喉に流す汐那に頭を抱えたくなった北乃はみゆきの方へと身体を寄せながら軽く肩を叩いた。

「……家でもこんなに天然なのかしら?」
「恐らく汐那ちゃん自身は何も気がついてないようですね……」
「ほんと知らないって怖いわ……」
「二人はこそこそと何を話してるんですか……?」

汐那がみゆきと北乃の和に入れなくて頬を膨らます。
一人のウェイターが静かにテーブルに近づき、三人衆の間に恐れることなく入っていく。

「大変お待たせ致しました。お料理の方をお持ち致しました」

さぁ、楽しい女子会の始まり始まり。


2013.08.18 UP
2018.07.20 加筆修正
2019.09.17 加筆修正
2021.08.23 加筆修正