パラダイムシフト・ラブ

36

は「電気、消しますね」と言った後、電気を消して布団に入り、この週末で起こった事を考えた。
結局イルミはから離れる事が出来ず、指輪の数字も残りの日数を意味している訳ではない事が分かった。
それだけでなく、100日以内に指輪が外れないと死ぬというルールも嘘である可能性が高い事も分かった。
此処最近あまり進展は無かったが、今回の発見で3歩ほど前に進めた気がした。
となると気になるのはカウントが0になった時だ。
その時はちゃんとイルミは元の世界に帰れるのだろうか。

「イルミさん、まだ起きてますか?」
「うん。人が起きてる空間で寝るのは苦手だから」
「それも職業柄ってやつですね。イルミさんは、向こうの世界に帰ったらまず何をしますか?」
「仕事の整理だね」

あくまでも仕事が優先らしい。
何となくイルミらしくては笑った。
は寝返りをうってソファに座って腕を組んでいるイルミを見た。
暗闇で表情は見えなかったが、目は開いているような気がした。
今はこの場に存在しているし、ちょっと頑張って手を伸ばせば触れられるぐらいの距離にイルミがは居る。
もし指輪の数字が0になった時、イルミは目の前から居なくなり、少し前の自分の生活が戻ってくる。
そう思うとつい、言葉が漏れた。

「イルミさんだけなのかな」
「え?」
「あ、いや、イルミさんだけ、元の世界に戻るのかなって思ったんですが……当然そうですよね! イルミさんは元々この世界の人じゃないし、元の世界に戻るだけですしね!」
?」
「な、何でもないですよ!」

は頭まで布団を被ってイルミに背中を向けた。
イルミがこちらに来れたということは戻る時は自分も一緒に、なんて一瞬考えてしまった。
自分の幼稚な考えには恥ずかしくなり咄嗟に誤魔化してしまった。

*****

またいつもの月曜日がやってきた。
結果、二人の読み通り指輪は数字を刻み、83に変わっていた。
良いことなのだろうが着々と数字が刻まれ、最終的に0になったときにそれを受け入れられる自信がには無かった。
午前中はメール対応や雑務に追われ、気がつけば13時を過ぎようとしていた。
隣の席のが気を利かせてかお昼にを誘い、二人は休憩室の丸テーブルで顔を合わせていた。

「なーんか元気ないね。どうしたの?」
「いや……この週末結構バタバタしてさ」
「何何? イケメン外国人彼氏と喧嘩でもした?」
「だから……いや、良いや。えっとさ……私、別れようと思う」

率直に今の宮前に対して思う気持ちや、少しだけ気になる相手が居ることを話した。
最初は神妙な面持ちで話しを聞いていただったが、だんだんと「何それ!?」と言葉を荒くする。
結論から言えば、別れて当然、というものだった。
次の相手が居ようが居なかろうと健全ではない関係ならさっさと別れるべき、というのがの意見だった。
おっしゃる通りの言葉がの胸にザクザクと突き刺さる。

……我慢しすぎだよ。マジで別れた方が良いって。利用されてるだけかもよ?」
「う、うん。そうだよね。あとさ……」

これは聞いても良いことなのか迷った。
口篭るは「どうしたの?」と不安そうな表情を浮かべる。

「もし……だよ?」
「うん。何?」
「……違う世界に行けるとしたら、どうする?」
「は?」

真剣な表情をするとは反対に間抜けな顔をした

「いや、だから、もし、だよ」
「何それ。意味分かんないんだけど」
「だよね……ごめん。何でも無いから忘れて」
ってファンタジー系に憧れる系だったっけ?」
「違うけど、ごめん。本当忘れて」

馬鹿な事を聞いているとは思った。
は笑って誤魔化すが、疑いの眼差しを向けてくるは新商品であるミルクティーを飲みながら眉間に皺を寄せていた。
何とか話題を変えようとしたがは「まさか二次元? それなら行きたい!」と火がついてしまい、休憩が終わるまでその話しで持ちきりだった。


2020.06.10 UP
2021.07.23 加筆修正