パラダイムシフト・ラブ

46

「いやー! 印象変わるね!」とはカフェラテを飲みながら笑っていた。
最初会った時には「珍しい!」と言われ、事あるごとに「いいねぇいいねぇ! 眼鏡っ娘は世界を救うよ!」と言われた午前中はあっという間に終わった。

「なんかおじさんみたいだよ」
「いやー、は分かってないよ。なんて言うか……性的に見える」
「やめてよ。それこそおじさんみたいだから」

は身体を左右に揺らしながら様々な角度でを見るが、その視線を無視してはチョコレートデニッシュを頬張る。
そんなに自分は眼鏡をかけると変わるものなのだろうか。
コンプレックスのせいでまじまじと自分の眼鏡顔を見たことがないには理解が出来なかった。

「ねぇねぇ! イケメン外国人彼氏はなんて?」
「だから彼氏じゃないって……別に何も……無いけど」
「嘘だ! その顔は嘘をついている!」
「まず彼氏ってところから違うから!」

そう言うとは「なーんだ。まだ進展ないの? つまんないなぁ」とカフェラテを一気に飲んだ。

「で、宮前さんはどうするの?」

は途端に真面目な顔つきになり声を小さくさせた。
真剣で、若干心配しているようなその瞳には嘘がつけなかった。

「……金曜日に話すよ」
「え? 本当に?」
「うん」
「どこで? まさか、会社……で、じゃないよね?」
「勿論。私の家の近くのバー……かな?」

それを聞いたは驚きながら「大丈夫なの?」と瞬きを繰り返した。
その店が行きつけの店であること、家から近いから何かあったらすぐ逃げれる事を伝えるとは目を細めながらニヤニヤと笑った。
気味の悪いその表情にが若干引いてるとは「彼氏君が助けに来てくれるかもしれないしね」と言う。

「ないない」
「どーだか。ねぇねぇどうする?」
「何が?」
はオレのだ! とか言って登場したら!」

が言う事を想像してみたが、うまく想像出来なかった。
そんな事をする性格だろうか。
否、しないだろう。

「そんな感じの人じゃないから」
「えー! でもそうなったらもイチコロでしょ!」
「いやー、実際そんなん起きたら引くって」
「嘘だー! 全乙女の夢でしょー!」

どうやらの今のお気に入りの乙女ゲームのテーが略奪愛らしく、休憩時間が終わるまでの略奪愛で感じる乙女のトキメキというのを聞く羽目になった。
イルミは自分が動く事がないようにあの店を話し合いの場に指定したのだから間違っても助けに来るなんてことは無いと思っていたは頷きながらの話を聞いていた。

*****

夜の準備を手伝っていたイルミはマスターにあるお願いをしていた。

「今週の金曜日なんだけど、が店に来ると思う」
が?」
「今の彼氏と別れ話をするんだって」
「ほ、ほう……」
「なんかあったら面倒臭いし、家から近い方が良いんじゃないかって言ったら此処に決まった」

グラスを拭きながら淡々と話すイルミをマスターは見つめていた。

「彼氏の話は最初の頃はよくしてたけど、此処最近ではめっきりだったからねぇ。」
「だから、オレの今までのバイト代で少しの間貸切に出来ない?」
「ん?」
「男って何するか分からないから。他の客が居るとも話せないだろうし。多分すぐ終わると思うから」

そういうイルミの顔はいつも通りの表情をしていた。
イルミのおかげで昼の売り上げは前と比べると倍以上になった。
本人は気がついていないだろうが、口コミの”かっこいい店員さんが働いている!”というのを見て来店する女性の客が増えた。
無表情で口が悪い部分もあるが黙々と言われたことをやる姿勢にマスターはイルミを評価していた。
そんなイルミからの提案を無下に却下する事は出来なかった。

「良いのかい? のプレゼントを買うために働いているのに……」
「うん。それでがアイツを”殺せる”なら安いもんさ」
「殺すって……まぁうん。良いだろう。真面目に頑張ってるイルミ君の頼みだ。今週の金曜日は1時間だけ貸切にしてあげるよ」
「あ、貸切はには内緒にしてね」
「分かっているとも」

マスターがニコっと笑うとイルミは顔を背けた。
素直じゃ無いイルミにマスターは苦笑いを浮かべ、磨いたグラスに指紋が付いていないかを確認しながら「イルミ君も夜残れば良いのに」と言うとイルミは少し考えた後に「気が向いたら」と答えた。


2020.07.15 UP
2021.07.25 加筆修正