パラダイムシフト・ラブ

51

。起きて」

イルミに頬を軽く叩かれた衝撃では目を覚ました。
何とも言えない気だるさと、背中の痛みには身体が起こせなかった。
何だか無性に疲れる。
意識もぼんやりとし、自分の体がどうなっているのかなど考えられる余裕が無かった。
聞こえるイルミの声を聞きながら目を瞑り、また夢の中に入ろうとした時だった。

「ダメだよ

ぐいっと体を起こされ、身体がゆらゆらと揺れた。
不安定な椅子に座ってゆらゆら揺すられているような浮遊感がを襲う。

「イ、イルミさ、ん……とても、眠いです……」
起きて。オーラ見える?」
「オー……ラ?」
「ほら、見える?」

また頬を叩かれはゆっくりと目を開けた。
しかし”オーラ”と呼ばれるものは何も見えなかったし、そもそも何が”オーラ”なんか分からなかった。
いつものイルミといつもの自分の体。
違うところと言えば体が重すぎて、倦怠感を酷く感じることだけでは前のめりに倒れ、イルミの体を支えに目を瞑った。

。オレの声が聞こえる?」
「は、い……。遠くで、聞こえます」
「聞こえてるならオレの声に従った」
「んー……」
背中と頭にイルミの手を感じながらはイルミの声に耳を傾けた。
ゆっくりと深呼吸をして、体の血液が血管一本一本に通るのをイメージをする。
体から溢れ出す蒸気を体に戻すイメージを頭に浮かべながら少しずつ、少しずつ体内に入ってくる様にイメージする。
体の毛穴一つ一つから蒸気を取り込み、次第にそれが体を駆け巡り、血として溶ける。
全身が暖かくなってきた気がしたはそこで意識を手放した。

*****

夜になってもが目覚める気配は無かった。
イルミは作り置きされた肉じゃがを食べながらを見ていた。
何とか命の危機は乗り越えたが、予想以上に眠っているが気になった。
寝息を立てていることから死んではいないことは分かるがこんなことは初めてだったためどうしたものかと考えていた。
明日になればの目が覚めると言う保証もないままイルミはいつも通りに食事を済ませた。
見る限りオーラは漏れていないが、あとは本人のセンス次第にかかっている。
もし、に才能がなければ連れて帰ったところで命はそう長くは持たないかもしれない。
ただでさえ貧弱な一般人なのだから、帰る前に何とかしたいとイルミは思った。
しかし、ふとそこで考えをストップさせた。
何故死んで欲しくないと思ったのか。
約1ヶ月ほど一緒に暮らして情が移ったのかもしれない。
長年顔見知りの同業者が仕事に失敗して命を落としたことを聞いても悲しい、寂しいと言った感情は湧いてこなかった。
しかし、もしが目覚めなかったら、死ぬかもしれないと思った時、何となく惜しいと感じた。

「……変なの」

一人呟いてを起こさないように立ち上がり電気ポットのスイッチを入れにキッチンへと向かった。

結局その日は一日中が目覚めることはなかった。
日付も変わって指輪のカウントに変化が訪れる時、イルミは指輪を見ていた。
ジジジっと音を立てて指輪の数字が変化し始めた。
今度はいくつカウントが進むのだろうか。
じっと見つめるなか、現れた数字は38で結果的に減った数字は1だった。
イルミはその数字に首を傾げながらを見た。
精孔を開けばもっと減ると思ったが実際にはそうならなかった。
一体何が影響をしているのか。
イルミはため息をつきながら背もたれに背中を預けた。


2020.07.21 UP
2021.07.26 加筆修正