パラダイムシフト・ラブ

56

身体中の血液が頭に昇ってくるのを感じては目眩がした。
これ以上近くでイルミの声を聞いていたら体が保たないかもしれない。
恥ずかしさで今にも叫びたい気持ちを抑えながらは小さく頷いた。

「言葉でちゃんと言ってよ」

イルミに顎を掴まれて上を無理やり向かされると、この状況を楽しんでいる黒い瞳にの怯えたような顔が映る。
その顔はまるで狼と食われる寸前のうさぎのよう。

「も、もう十分……理解していますよね?」
「ダメ。ちゃんと起きてる時に言うって約束したから」
「……む、無理、無理ですよそんなの」
「何で?」
「恥ずか、しい……から」
「それが良いんじゃん」

近づいたイルミの唇がの首筋に触れる。

「わ、わわっ!」
「早く言いなよ」

小さなリップ音にの体が強張った。
このままでは流れに流されて後悔するような気がしたは最後の抵抗を示すためにイルミの腕を掴む。
一瞬動きを止めたイルミに「だ、だめっ、ダメですよ」と言うが、本人は言うまで止めない様子で「じゃあ言う?」と耳元で小さく笑われた。
が躊躇っているとイルミはの腰を撫でる。
小さな体がビクンと震え、徐々に登る手が背中を撫で、肩に触れるとの唇から甘い香りを含んだ声が漏れる。

「良いの? このままヤっちゃうよ?」
「そ、それはダメ!」
「なら言ってよ。気は長い方じゃないって知ってるよね?」

チクっとした痛みがの鎖骨に走った。
は反射的に自分からイルミを剥がし、イルミの両頬に手を添えて真っ直ぐに見つめた。
言うだけでは止まってくれないかもしれない。
そう感じたは自ら自分の唇をイルミの唇に押し当てた。
ゆっくりと唇を離して恐る恐るイルミを見ると、当の本人はいつもの真顔ではあったが若干大きな目が何時もより大きく開かれていた気がした。
この雰囲気を打開出来るなら腹を括るしかなかった。

「す、好きです……」
「誰が?」
「え、イ、イルミさん……が」
「ふーん。おまけつきとは思わなかったからちょっと驚いた」
「こ、これで約束は守りましたよね!」
「うん。ならこれは合意の上って事で受け取って良いよね」
「え、っちょ」

イルミはグっとの腰を引き寄せ先ほど離れたばかりの唇に噛み付いた。
倍返し以上のキスに逃げようとすると口内に舌が侵入される。
執拗に追いかけてくる舌に逃げているとゆっくり体を倒された。
足の間に割って入るイルミの足を感じながら身をよじらせると、冷たい手がストッキングの上を這う。

「イッ……リュミしゃ、んっ……」

足を撫で、腰を撫でた後の膨らみに手が触れる。

「ん! んん!」

イルミの肩を叩くとやっと唇を解放してくれた。
涙目になりながら肩で呼吸を繰り返すは小さく「駄目です」と言った。
垂れる髪の毛が邪魔なのか鬱陶しいそうに髪をかけあげたイルミが「何で」と問う。
の静止も聞かずにイルミはまた白い首筋に唇を寄せるとゆっくりと舐めた。

「駄目です! 今日は、本当に駄目なんです!」
「今日は?」
「あの、えっと、色々と事情が……」
「あぁ。何? あ、もしかして風呂? 別に良いよ」
「いやだから、そうじゃなくて!」

切羽詰まったの声にイルミは顔あげて首をかしげる。

「お、女の子の日……なんです!」

恥を捨てて叫んだは「だからダメ、です」と付け足した。
それを聞いたイルミは少し考えた後「血は見慣れてるから」とデリカシーのかけらもない事を言った。
それがを現実へと引き戻す引き金となりはイルミの髪の毛を思いきり引っ張った。


2020.07.24 UP
2021.07.26 加筆修正