パラダイムシフト・ラブ

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はっきりと、の声は部屋に響いた。
見えない声は嬉しそうに「そうですか!」と言う。
次はどんな選択をさせられるのかドキドキしていると見えない声が「では次に」と言う。

「2つ目はイルミ様にお聞きしますが、指輪を残しますか?」
「残さない」

と違ってイルミは即答だった。
驚いたは「え? い、良いんですか?」と聞きながら袖を引っ張った。

「おや。記念に、とは思わないんですか?」
「別に。が居るだけでこっちに来た記念になるから必要無いね」
「……分かりました。私の仕事は1回ポッキリという訳ですね。他の人に配って頂けたらまた新しい世界が見れたというものを……致し方無しですね」
「えっと、えっと……」
「何照れてるのさ」

急に言われた嬉しい言葉にあたふたしていると見えない声が「では最後に」と言い出し、余韻に浸る暇を与えなかった。

「最後の質問ですが、これからイルミ様を元の世界に戻しますがお嬢様も同行という事でよろしいですか?」

二人は顔を見合わせた後、はゆっくりと頷いた。

「勿論それで」
「私を、新しい世界に連れてってください」
「承知しました。それでは、ご両名のパラダイムシフトラブに祝福を」
「あ、消えた」
「え?」

イルミがそう言うと、途端に真っ赤な炎が立ち上る。
一瞬にしてイルミの姿は見えなくなり、近づこうと手を伸ばすと熱さに手を引っ込めた。
ソファは燃えていないところを見るとイルミだけが炎に包めれていた。

「イルミさん……イルミさん……」

此処で手を掴まないと置いてかれてしまうと思ったの目に涙が浮かぶ。
掴みたい手がどこにあるのかわからず、熱風に煽られながらも顔を庇い、片手を伸ばす。
熱さに顔を歪めながら手を押し込むと冷たい手がの手に触れ、強く引かれた。

「わぁっ!」
「これからもよろしく、
「えっ、イルミさ、待って!」

重なる唇は包みこんでいる炎よりも熱く、甘美に感じた。
イルミの言葉はイルミを元の世界に返すときに言われた”よろしく”に似ていて、は無意識にイルミの首に腕を回して受け入れた。

「こちらこそ、です」

この世に絶対も当たり前も無い。
きっかけは誰にでも、気がつかないところに転がっている。
それを受け入れるか、受け入れないかは自分次第。
受け入れた先に待っているのはまた違ったパラダイムかもしれない。
そんな期待を胸にはゆっくりと目を閉じた。


2020.08.09 UP
2021.07.27 加筆修正