パラダイムシフト・ラブ2

18

2日目の夜の仕事は少々面倒臭いものだった。
ターゲットの動向を追いながら金品の受け渡しが確認できた後に殺害する案件で、1人で行動するのが面倒臭かったイルミは暇つぶしの相手を呼んでいた。
木の枝に乗りながら双眼鏡を片手にパーティー会場を覗くイルミが「持ってきた?」と切り出した。
同じように木の枝に座っていたヒソカはトランプカードで遊びながら「何をだい?」と返す。

「だから携帯」
「君、無くしたの?」
「いや、壊しちゃったんだよね。買えば良いんだけどどうせならタダで貰える方が良いじゃん?」
「相変わらず守銭奴だねぇ」
「だから使ってないやつあるならちょうだい」
「それは面白い理由で壊したのかい? 理由によっては使ってないやつがあるからイルミにあげるよ」

ヒソカはバラバラに切ったカードの一番上のカードをめくるとジョーカーが出た。
片時も目を離さないイルミは「ちょっとなんか、うーん、イラっとくるメールが来たから」と静かに答えた。
ジョーカーのカードにキスを落としたヒソカはそのカードをもう一度戻しシャッフルする。

「それで? 携帯壊すなんて、相当だね。誰からなんだい?」
「……弟」
「内容は?」
「……ゲームしてるって報告」
「は?」
「オレは1人で仕事してるっていうのに。キルアとの3人でゲームしてるんだってさ。しかも昼前から」

イルミは小さくため息を吐いた後双眼鏡から目を離した。

って……あのお姫様かい?」
はただの一般人だよ?」
「ごめんごめん。君にとっての”お姫様”って意味だよ。でもゲームくらい良いじゃないか」
「ダメだよ」

即答で答えるイルミにヒソカは笑いを堪えながらシャッフルしたカードの一番上をめくる。
ハートのクイーンのカードをイルミに見せながら「何で?」と聞くと「何でも」とすぐ返ってきた。

「……やっぱり君は面白いなぁ」
「オレはこの上なく面白くないんだけど」

イルミはゆっくりと立ち上がると長い髪の毛を風に靡かせながら「そろそろ行ってくる」と零す、その横でヒソカはカードをまた戻してシャッフルした。

「なら終わったら携帯渡すよ。ボクは此処で初期化でもして待ってるからさ」
「うん。よろしく」
「いってらっしゃい」

イルミは軽く枝を蹴って次の木へと移った。
本人は気がついていない独占欲と嫉妬にヒソカは小さく笑いながらトランプカードをズボンにしまい、代わりに真新しい携帯を取り出した。
最初に連絡を貰ったとき、滅多に使わないと行っていたパソコンからのアドレスで本文には”携帯無くした。いらないやつある?”だった。
何か面白い話が聞けるかもしれないと踏んだヒソカは不要な携帯は持っていなかったが”あるよ”と嘘をついてイルミの今夜の仕事先で合流した。
まさか弟からのメールに嫉妬して携帯電話を壊したとは予想もしなかったヒソカは小さく笑いながら話題に上がったの事を思い浮かべた。
ヒソカの中でのの印象はうろ覚えだが、あのイルミが気にかける子としてインプットされていた。
もしにちょっかいを出したらイルミはどんな顔をするのだろうか。
その表情、殺意を想像しただけで下半身に血液が集中し始めるのを感じてヒソカは「美味しい展開だねぇ」と新品の携帯電話の設定を進めた。

*****

ターゲットがパーティー会場を離れ、2階の開けたルーフバルコニーで恰幅の良い男と話をしているのを近くの木の枝す座ってイルミは見ていた。
数分会話したあと、ターゲットは持っていたアタッシュケースをその男に渡した。
ケースを開けて中身を確認した男はすぐにその場を離れたところでイルミはポケットから針を取り出して狙いを定める。
空を切るように投げられた針は男の後頭部に突き刺さった。
針が刺さった男は足の力が抜けたのかその場に跪き、操られているかのように自分の手で首を絞め始めた。
悶えるように動きながらも首をしっかりと絞める男はいつしか倒れ、動かなくなった。

「よし」

動かなくなったのを確認した後、イルミはバルコニーに飛び移り男の首から針を抜いた。
針を振って付いた血液を飛ばすと誰かが扉を開けてバルコニーに入ってきた。
胸元が開いたドレスと肩にショールをかけた女は倒れている男と黒髪を靡かせて顔を隠すイルミを見て叫びそうになったが、イルミの方が動きは速く、叫ぶより前にその女の喉には先ほど抜いたばかりの針が突き刺さる。

「任務完了……って携帯ないから連絡出来ないんだった」

倒れた女を足で蹴って仰向けにさせると喉に刺さった針を抜き取る。
口から血を流している女は眼鏡をかけていた。
なんとなくその眼鏡の形がが着用しているデザインと似ており思わずイルミの動きが止まる。
こういう格好も悪くなさそうだと凝視していると背後から「何してんの?」と声をかけられた振り返ると、バルコニーの手すりに腰掛けたヒソカがニヤニヤしながらイルミを見ていた。

「そっちこそ何してんの」
「ん? イルミの仕事っぷりが見たくてね。ついて来ちゃった。で、何してるんだい? まさか大胆なパーティードレスに欲情しちゃったとか?」
「……違う。こういう服って何処に売ってるのかなって思っただけだから」

イルミはその場を離れてヒソカの元へと歩くと手すりに手を付いた。

「あ、もしかしてお姫様に着せたいの?」
「別に」
「でもあのお姫様なら案外似合うかもね。スカート捲って後ろから、とか君好きそうだし」
「人で気持ち悪い想像しないでくれる? オレを何だと思ってるわけ?」
「ベッドでもドSなイルミに決まってるじゃないか」

イルミはため息をつきながら左手を出すと、嘘で準備した携帯電話をヒソカはその手の上に置いた。
すぐにイルミは自分の携帯を取り出して小さなチップを受け取った携帯に差し込んだ。
バキバキに割れている画面を見てヒソカは「わーお」と笑うとイルミは貰った携帯に電源が入るのを待ちながら「ちょっと力入れたらこうなっちゃった」と画面が割れている携帯をズボンのポケットに戻した。


2020.09.21 UP
2021.07.30 加筆修正