パラダイムシフト・ラブ2

22

手応えのない仕事を繰り返しながらイルミは仕事に出てから5台目の携帯電話を使ってシルバに任務完了報告のメールを送った。
死体を蹴飛ばしながら帰ろうとすると呼んでもいない客人がカーテンから姿を現した。

「やぁイルミ」
「ヒソカ……呼んでないけど何で居るの?」
「呼ばれてなくても来るのがボクだよ? 君らしくない派手な殺し方じゃないか」
「いつも通りだし」
「んー。いつもより反応が冷たい。もしかして欲求不満?」
「……別に」
「今1.5秒返事が遅れたって事は図星だね。流石のボクでももう替えの携帯は持ってないからね」

持っていた携帯がきしむ音をたてる。
イルミが握りしめている携帯を指差してヒソカはクスクスと笑う。

「ねぇねぇ。何日シてないの?」
「煩い」
「抜かないと身体に悪いって知ってる?」
「変態と一緒にしないで」

付き合いきれんとばかりにイルミは前髪をかきあげながらため息を零した。
正直なところイライラする頻度が増えている事を自覚していたイルミだがこれが欲求不満からくるイライラだとは思っていなかった。
毎日定期的に入る報告メールが原因で自分の知らないところ、見えないところでが自分から活動の場を広げている事にイライラしていた。
何となくそれは面白くない。
それが率直な気持ちだった。

「自分の手は汚したくない君の事だからどうせシてないんでしょ?」
「気持ち悪い。不潔。下品。死ね。これ以上オレに近寄らないで」
「うわー辛辣。けどそんな君も良いと思うけど、遊びに誘ってくれないのは寂しいからサプライズを用意しておいたよ。あ、お代はサービスしてあげるよ。それは彼女の名刺ね」

割って入った窓から帰ろうするとイルミに狙いを定めてヒソカは一枚のカードを投げた。
イルミは振り返らずに人差し指で中指でそのカードをキャッチすると「余計なお世話だから」と一言呟いた。

「煮るなり焼くなり殺すなり好きにしたら良いよ」
「必要ないから」
「指輪を渡した時もそんなこと言ってたけど、結局お姫様をゲット出来たじゃないか。今回も素直にボクからのプレゼントを受け取っておいた方が良いと思うよ」
「……速攻殺して良いんだよね?」
「どうぞ。君のお好きなように」

不気味に笑うヒソカを横目にイルミは指に挟んだカードを投げ返し、何も言わずに窓から身を投げた。
滞在先のホテルにデリバリーヘルス嬢でも押し付けてくる事を予想しながらイルミは浮遊感に身を任せた。

*****

ホテルの滞在時間をずらしたにも関わらず監視でもされているのかシャワーを浴び終えたところで客室内の電話機が鳴った。
嫌な予感しかしないが出ないわけにもいかず、イルミは頭にタオルを被せながら受話器を取った。

「何」
「イルミ様お休みのところ大変失礼致します。フロントにお連れ様と名乗る方がおいでですが如何なさいますか?」
「……女?」
「はい。女性の方でして、シャルロットと申しております」
「通して良いよ」
「承知致しました」

仕事終わりの後でまた1件、金にもならない仕事をしないといけない事に重たい溜息が漏れる。
追い返すのも出来たがどうせお代がタダなのなら使った後に殺したところで自分は悪くないだろうと考えた。
そもそも自分の好きにして良いと言われている。
ヒソカから何か聞かれた時は”気にくわないからすぐ殺した”と言えば遊んだ事もバレない。
一体どんな奴をよこすのか気になりイルミはテーブルに並べておいた針を2本取ってこれから飛び込んでくる罪もない羊を待った。

フロントからの電話が鳴ってから10分程でドアがノックされた。
死体と共に一夜を過ごす趣味はないイルミは着替えを済ませ、首にかけていたタオルを椅子に放り投げる。
針を構えながらドアを開けるとドアの前に立っていた嬢はイルミが持つ針を見て「ヒィッ!」と小さな悲鳴を上げながら頭を抱えてしゃがみ込んだ。
うずくまりながら震える女性の見た目は何処かに似ていた。
同じ髪色と髪型、同じような体型、同じような眼鏡とご丁寧にホルターネックのパーティードレスに身を包んでいるオプション仕様だった。
唯一似てないのは顔と声と大きく膨らんだ胸元だけ。
よくもまぁ外見だけ似ている嬢を見つけてきたもんだと半ば感心しながらイルミは冷たい目で見下ろしながら「何しに来たの」と問う。

「ヒ、ヒソカ様から……こちらに行くよう……ご指名が、あ、ありまし、て」
「あいつとは面識があるの?」
「こ、こちらに来る、前に……地図を渡されて……」
「ふーん。それだけ?」
「そ、そ、それだけ、です」

人目につくかもしれないホテルの廊下で目の前の嬢を殺すのは少しリスクがあった。
ましてや此処に来る前にヒソカに接触しているともなれば何かあるかもしれないと踏んだイルミは嬢の腕を掴むとすぐに部屋へ引きずり込み、壁に押し付けた。

「あ、あの、あの、まずシャワーを……」
「動いたら刺す」
「あっ……」

嬢を壁の方に向かせて片手で嬢の頭を壁に押し付けながら首筋で結ばれているリボンを口で引っ張って解くと胸元を覆っていた部分がはらりと落ちる。
壁に2本の針を突き立てた後、露わになった胸を探るような手つきで揉むと嬢が甘く反応する。
探る手は腹へと伸び、深く入ったスリットから覗く足へと進み、太ももの内側の柔らかい部分を撫でると嬢はたまらず声をあげた。

「さっきから煩い」
「あぁ……イルミ様……気持ち良くて……」
「あっそ」

自然と尻を突き出し、イルミの下半身に擦り付けてくる嬢の姿に虫酸が走った。
そのまま尻を撫で、尾てい骨に触れると指に何か引っかかる感触がした。

「あいつと会って”それだけ”ってよく言えるね」
「えっ?」

イルミはサイドについているチャックを下ろしてドレスを床に落とした。
嬢をレースの付いたTバックだけを身につけた格好だけにさせると中指で嬢の背中の筋に触れ、ゆっくりと指を滑らせると嬢は口元を押さえながら腰を上下に振る。
尾てい骨のあたりに触れるとシールの端のようなものが指先に引っかかっり、それを剥がすとシールの粘着面には極小の四角い黒い物がついていた。
察するにそれは盗聴器だった。

「ヒソカ。はこんな積極的じゃない。それと、下着は白じゃなくて緑だから」

イルミは黒い四角い物を指で潰した後、壁から素早く針を引き抜いて嬢の首筋に刺す。
断末魔を上げながら体をヒクヒクさせるのを横目にイルミは受話器を取ってフロントに電話した。

「自動チェックアウトで。あと、特殊清掃も追加で。差額は振り込んでおくからよろしく」

受話器を静かに戻すとテーブルの上に置いておいた携帯が震えた。
どうせ親父からの”了解”メールだろうと思いながらチェアに腰を下ろして携帯を操作すると珍しく弟のミルキからだった。
またくだらない報告かと思い開いたが、アカウントはミルキの物だが書き手は違う人物だった。
添付されているデータを開くといつの間に写真を撮るまでの仲になったのか3人が写っていた。
中央に写る人物は笑みを浮かべながら前髪を持ち上げて額を露わにしていた。
その後ろで慌てた表情のミルキと中央に写る人物の頭からひょっこり顔を覗かせてピースをしているキルアが写っていたが、それは正直どうでもよかった。
それよりもイルミは中央に写る人物の額の中央部分が丸く赤くなっていることに目が離せなかった。
すぐにある番号にダイヤルし、「はい。イルミ様どうされましたか?」と尋ねる執事に「今すぐヘリ用意して」とそれだけ言うと電話を切った。


2020.09.28 UP
2021.08.01 加筆修正