パラダイムシフト・ラブ2
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緊急で家族会議を開くと連絡を受けたゴトーはの事をカナリアに任せ、早足で屋敷へと向かった。
大方内容はをいつハンター試験会場に送り出すかというものだろう。
ゴトーはダイニングルームのドアをノックして入るといつもの面子の顔が揃っていた。
「遅れて申し訳御座いません」
「それよりちゃんは!? あの綺麗な手の傷は治るのよね!?」
「……大丈夫です。今はカナリアが診ております」
「そう……はぁ……健気に頑張る姿を思い出すと涙が出てくるわ……」
キキョウのゴーグルのランプが高速に動くのを見ながらゴトーはいつもの立ち位置へと移動した。
全員が揃った事を確認したシルバは「なら始めるとするか」と静かに言った。
「ミルキ。ハンター試験のサイトにはアクセス出来たか?」
「さっきやっと会場が判明したからメールで送っておいたよ。けど、試験内容までは無理だった。あいつらどんだけセキュリティかけてんだよ」
「ならその会場をお嬢さんに教えてやれば良いわけじゃな」
「参加者名簿にキルの名前は?」
「あったよ。ほら」
ミルキは印刷した紙を全員に配った。
ずらりと並んだ名簿の中に確かにキルア=ゾルディックの名前があり、キキョウは扇子で口を隠しながら「まぁ!」と興奮した。
「ならとイルミのエントリーを頼む。予定通りを」
「……その事ですがシルバ様」
「ん?」
「カルト様の提案でをキルア様のお目付け役という事で会場に送り込む計画ですが、それに気がついたキルア様が試験を途中で放棄される可能性は無いでしょうか」
「キルが辞退!? あの子がそんな事するもんですか!」
「いや、待て」
シルバは立ち上がるキキョウを一瞬だけ見ると「ありえないとは言い切れない」と小さく零した。
頭の回転が早いキルアなら計画を察知してと逃走しかねないとシルバが予想されるキルアの行動を提示すると周りは小さく頷いた。
ミルキは「じゃあどうすんだよ? キルもあの女もイル兄も参加してライセンスってなるとなかなか難しいんじゃねーの?」とふんぞり返りながら机を叩く。
「ふぅむ……お嬢さん本人はライセンスに興味がありそうなんじゃがなぁ」
「その事ですが、私に考えがあります」
「お前に?」
「この件、任せては貰えませんか? は一応、私の管轄下にあるので」
「ボクの案以外にどう説明するの?」
「直接本人に受けるよう命じます」
ゴトーの言葉に一同は一瞬言葉を飲んだ。
「はぁ!? お前マジで言ってんの?」
「えぇ」
「イルミにはどう説明する?」
「が”受けたい”と言った事を説明します」
「……それでイルミが受けなかったらどうするのよ!」
「その時は”その程度の感情”、という事で話しは終わりです」
一同が言葉を飲む中、ゴトーには考えがあった。
もし本当にイルミがの事を大切だと思うのであれば、まだまだ一般人に近いが一人で無謀にも試験に参加するとなれば追いかけるだろう、と。
そう思ったゴトーは眼鏡を直しながら言葉を続けた。
「はその辺の一般人とは違いますし、彼女の努力や根性は一番私が良く理解しております。イルミ様の為を思えば何でも喰らい付くような女性です」
「健気じゃのう。あの甲斐性なしの何処が良いんかわしにはさっぱりじゃ」
「けど、イル兄が参加したら……あいつイル兄に頼るんじゃねぇの?」
「その事ですがミルキ様、エントリーを”あの姿”でして頂けませんか?」
「ッゲ! あの姿って……まさかあの超気持ち悪いアレ? バレたら愛想尽かされるんじゃね?」
「その時はそれこそ”その程度の感情”ですよ」
ミルキを見ながら小さくゴトーは笑った。
その言葉を聞いてシルバは「分かった」と小さく言う。
「の説得はゴトーに任せる。イルミの事はオレ達に任せてくれ。で、ミルキはエントリーを進めてくれ」
「えー、あの姿の写真何処に保存したっけなぁ……」
話の終着地点が見えそうだった時、キキョウは持っていた扇子を閉じた。
「ちょ、ちょっと! 私の接触禁止はいつ解かれるんですの!?」
「ん? まぁが無事に帰ってきたら、だな」
「送り出しぐらいは私にもさせて欲しいわ!」
「この前の食事の時みたいにボロを出さなければな」
「あ、あ、あの時は仕方ないじゃ無い! 感動したのとパパやお義父様達が仲良くしてて私だけ仲間外れなんて耐えられなかったんですもの!」
「送り出しもこりゃ見送りじゃのぉ」
「お義父様!?」
キキョウ以外が席から立つと「わ、私も! 私も送り出しに!」と慌ててキキョウもそのあとを追いかけた。
一人残されたゴトーは戸締りと椅子を元に戻してからダイニングルームをあとにした。
*****
は暗闇の中ゆっくりと目を覚ました。
顔を動かすとベッド脇に座るカナリアと目があった。
「お目覚めですか? 様」
「あれ……私……」
「また意識が飛んだようですね」
「え? 今、何時ですか?」
「夜の9時を回ったところです」
カナリアは持っていた懐中時計をに見せる。
はゆっくりと身体を起こし、ずっと側に居てくれたのかカナリアに問うとカナリアはゆっくりと頷いた。
自分の手に視線を移すと先日同様に包帯が巻かれており、これもカナリアがやってくれた事を教えてくれた。
「指先が少し火傷してましたけど、すぐに処置したので大丈夫ですよ」
「……有難う御座います」
「頑張ってくださいね」
「え?」
何に対してなのか聞きたかったが、無言の圧力を含んだ笑顔には聞けなかった。
ゆっくりと立ちあがったカナリアはの手を引きベッドから立たせると「執事長がお呼びです」と言われた。
もしかしたら今朝の事で何か言われるのかもしれないと思ったはゆっくりと頷いてカナリアの後を追った。