パラダイムシフト・ラブ2

47

「親父。どういう事かちゃんと説明してくれない?」

ソファに座るシルバを見ながらイルミは腕を組み、眉を寄せていた。
が屋敷を出て行った2日後の31日の昼過ぎにイルミは屋敷に戻ってきた。
屋敷の中からの気配が感じ取れない事に違和感を覚えたイルミは近くにいた執事を呼びつけると「は?」と問う。
当然下手な事を言えない執事は何も答えられず、しどろもどろになる執事をその場で殺し、イルミは真っ直ぐにシルバの部屋へと向かって現在に至る。

の気配が無いんだけど、どういう事?」
なら出て行った」
「は? 出て行った? 何で?」
「お前のためにハンター試験を受けにだ」
「……ちょっと待って、意味分かんないんだけど」
「言った通りだ。ライセンスを持たないお前のために、はハンター試験を受けにこの家を出て行った。だからこの家には居ない」

二人の間に緊張感のある雰囲気が立ち込める。
シルバが言う”お前のために”というのが気になり、イルミは溜息をつきながら前髪を掻き上げた。

「オレはそんなこと望んで無いんだけど。ただ、変な奴に絡まれても平気なようにちょっと鍛えておいてとは言ったけど」
「あぁ。しかし、これはが望んだ事だ」
が受けたいって言ったの?」
「そうだ。だからこれはの意思だ。それを尊重しないでどうする?」
「……そんなの報告に無かったんだけど。それにキルも居ないし。何か関係があるの?」

苛立ちが抑えられないイルミの目が細くなる。

「オレらが居ない間に一悶着あってな。キルがミルキと母さんを刺して出て行った。まぁ、家出だ」
「キルが? キルに刺されて母さん喜んだでしょ」
「立派に成長してて嬉しいって泣いてたな」
「っは。だろうね」

鼻で笑うイルミを見ながらシルバは口元だけで笑った。

「それで、試験は明日だ」
「……もうそんな時期だっけ?」
「あぁ。恐らくは一人で、知らない連中に囲まれながら会場に居るだろうな」

その言葉にイルミの表情が少しだけ固くなる。
シルバがこういう言い方をするとき、決まって自分を誘導しようとしている時だった。
随分と綿密なスケジュールを組むもんだから怪しいとは思っていたが、まさかこうなるとは予想していなかったイルミは溜息を吐きながら「オレのエントリーは?」と自ら罠に掛かりに行く。

「してある、が。ミルキがお前の写真をこれしか持っていなくてな。一先ずこれで参加してくれ」

一枚の写真をイルミに渡すと、イルミは少し考えたあと「よりによってこれ? はオレがこの姿で参加するのは知ってるの?」とシルバに問う。
その問いに対してシルバは「いいや。お前が参加する事すら知らない」と答えた。

「オレがライセンス取らないからってこんな回りくどい事することないのに。時期が来ればちゃんと取るよ」
「そうやって後回しにするお前のために、今回が動いたんだろう」
「……で、キルが家出をした理由は?」
「試験に参加すれば分かる」

意地悪そうに笑うシルバにイルミは「まさかキルも参加するの?」と首を傾げた。
ゆっくりと頷くシルバにイルミは「参ったなぁ」と頭を掻いた。

「もしかしてオレに監視役させようとしてる?」
「弟と彼女の成長を間近で見守れるんだ。役得だろ?」
「……は彼女じゃないけど。まぁいいや。場所は分かってるんでしょ? さっさと教えてよ。遠かったら今からじゃ間に合わないからさ」
「くれぐれもバレないようにな」
「分かってる。何もハロウィンパーティーで変身したやつを使われるとは思わなかったけど……頑張るよ」

イルミはシルバから一枚のメモを受け取り、部屋を出た。
その頃丁度は目的地の場所に到着し、”めしどころ ごはん”と書かれた店の看板を見上げていた。


2020.11.02 UP
2021.08.04 加筆修正