パラダイムシフト・ラブ2

50

ガタガタと震えながらは立っているのが精一杯だった。
冷や汗が頬を伝い、は周りから聞こえるざわつきに目を固く瞑った。
絶望を与えるような気配には小さく息を吸うとヒソカの「やぁ」という声に顔を上げた。

「さっきの男、もしかして殺したの?」

ヒソカがそう言うとカタカタと聞こえた。

「ふふっ。ボクなんかよりよっぽど容赦ないなぁ。あぁ、お姫様なら……此処に」
「うわぁっ!」

はヒソカに首根っこを掴まれ、強引に前に引きずり出された。
目の前に押し出されてよろけたは足元からゆっくりと目の前に立つ人物を見上げた。
高身長のその相手は顔に針のようなものが無数に刺さったモヒカン頭をしているいかにも怪しい人物だった。
カタカタと揺れるその男はの肩に手を置くと、の口から「ヒィッ!」と悲鳴が漏れた。

「あ、あ、あの……ど、ど、どちら、様……でしょう、か」

が涙を目に浮かべていると、男はの身体を反転させる。
ゴトーが別れ際にくれた緑色の雫型のチャームが揺れた。
慌てふためくを無視し、男はもう一度反転させるとの頭を乱暴に撫でる。
が瞬きをしながら男を見ていると、雰囲気が不気味すぎる顔が急に近付きカタカタと揺れた。

「ズボンじゃなくてタイトスカートが良かっ」

ヒソカが言葉を最後まで言い終わる前に言葉が消えた。
目にも留まらぬ速さで男の空いてる手がヒソカの脇腹にめり込んでいるのを見ては全身で震えた。

「……痛いなぁもぉ。お姫様が怖がってるよ?」
「あの、あの……」
「あぁ。彼ね。えーっと、イルミのお弟子さん……だよね?」

ヒソカが男に首をかしげると男は返事の代わりにカタカタと揺れた。

「お弟子……さん……?」
「そうさ。彼、強いからね。あの強さならそりゃ弟子ぐらい居るさ。なんせイルミは業界じゃ有名な暗殺一家のご長男だからね」

解放された頬に触れながらもう一度男を見上げた。
顔や頭に刺さっている針は確かにイルミが使っているそれに酷似していた。
カタカタ揺れるだけで意思疎通が出来そうにない男には唇を噛み締めながら上から下まで観察した。
背格好も似ており、服装も日本で最初に会った時に似ているような気がした。
弟子がいる話は聞いた事がなかったが、自称友人というヒソカがそう言うなら間違いないのだろうと半信半疑ではあるものの信じることにした。

「あ、あの……イルミさんは……どちらに?」

は男を見ながら問うが、反応は無い。

「あぁ、そういえば自己紹介の途中だったね。お姫様が来た時に会ったんだけど、ボクはヒソカ。お姫様は?」

まるで初対面のように接するヒソカを見た後、謎の男を見た。
イルミの関係者の前だからそういう風に装ったのだろうと理解したは以前ヒソカが訪れた時のことを思い出してその流れに合わせた。

「あ、です」
「そう、ね。これからヨロシク」
「あの……こ、こちらの方は……?」

男とヒソカは顔を見合わせると男の代わりにヒソカが「彼はギタラクルだよ」と答えてくれた。
その横で男は笑っているのかカタカタと大きく揺れた。

*****

警報ベルのような音が鳴り響き、は身体を跳ねさせた。
何事かとざわめくなか、一人のスーツを着た男が天井から降りてきた。
手から釣る下がる珍妙な人形の舌を引っ張るとその音は鳴り止んだ。

「ただいまを持って受付時間を終了致します」

試験官と思わしき男の声が響いてきた時、会場中に緊張感が走る。

「ではこれよりハンター試験を開始致します」

場の雰囲気が変わりにもいよいよ始まる試験に緊張が走るが、その横に仕える男二人はトランプのカードを切ったり、カタカタ揺れていたりといまいち緊張感に欠けていた。

「さて一応確認いたしますが、ハンター試験は大変厳しいものであり、運が悪かったり実力が乏しかったりすると怪我をしたり死んだりします。それでも構わないという方のみ、着いて来て下さい」

その言葉を皮切りに参加者達が移動を始める。
も前の人に習って歩き始めるとヒソカが「いよいよだねぇお姫様」と笑う。

「承知しました。第一次試験参加者406名、ですね」

は一瞬隣を歩くギタラクルの胸元にあるプレートを見た。
その数字は自分の次の数字である407だったが、試験官は第一次試験の参加者は406名と言った。
既に誰かが脱落している事実には不安を胸に、肩掛け紐を強く握りしめながら前を見た。


2020.11.04 UP
2021.08.05 加筆修正