パラダイムシフト・ラブ2
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試験の疲れからか大広間に居る者達の大半が眠っているなか、はバッグを膝に抱えながら隣で揺れているイルミ、否ギタラクルを見ていた。
今更ながら頭や顔に刺さった針のような物は痛くないのだろうかと盗み見ていると二人の前で胡座をかくヒソカがニヤニヤ笑いながら「見過ぎだよ」とを指差した。
「わ、わわわ私は別に!」
「シーッ。静かにしないと皆が起きちゃうよ」
「だ、だって……ヒソカさんが変なこと言うから!」
声のボリュームを落としながらもう一度ギタラクルを見る。
どこを見ているのかわからない目がの方に向くと、は思わずバッグで顔を隠した。
「あ、あの……気になってたんですけどそれ、痛く無いんですか?」
はバッグを下すと、遠慮がちに針を指差した。
イルミはカタカタと揺れながらゆっくりと横に振るとヒソカが静かに「一回取っちゃえば?」と言った。
「え? アクセサリーじゃないんですか?」
当然食いついたはヒソカとイルミを交互に見る。
二人の間にただならぬ空気が立ち込め、は身を震わせながらバッグを抱きしめた。
「そろそろ君も一回抜かなきゃ辛いでしょ?」
イルミの表情は変わらないが小さく舌打ちをした。
「も見てみたいだろ?」
「え? えぇ?! な、何をですか?」
「彼が抜くところさ」
「な、なんか言い方が卑猥です!!!」
「んー? 何を想像したのかなぁ? ってばいやらしいなぁ」
「ヒソカさん!!」
が大きな声を出すと奥の方から「うるせぇぞ!」と怒られた。
ふいに立ち上がろうとする二人をは必死に抑え、「も、もう寝ましょう!」と提案した。
皆試験で疲れているはずのにどうしてこの二人はこんなにも元気なのだろうかとはため息を零す。
しぶしぶ座った二人を見て「試験は明日もあるんですから、寝ましょう」と告げた後、今度はが立ち上がった。
「ブランケットがどこかにあると思うんです。ちょっと見てきます」
寝ている参加者を器用に避けながらドアへと向かうを見ながらヒソカが「折角チャンスあげたのに」と頬を膨らませた。
「……余計なお世話」
「君だってそろそろ”イルミ”として接したいだろ?」
「別に。これはこれで面白いから」
「なんだかを騙してるみたいで可哀想だよ」
「よく言うよ。人の反応見て楽しんでるくせに」
「ボクは友人として君のサポートをしているんだよ」
「オレはヒソカを友人と思ったこと一度も無いけどね」
「相変わらず辛辣ぅ」
ヒソカはズボンのポケットからトランプカードを取り出すとタワーを作り始めた。
程なくして3人分のブランケットを抱えたが戻ってくる。
持って来たブランケットをイルミとヒソカに渡し、は肩からブランケットを羽織って壁に寄りかかりながら寝ようとすると視線を感じた。
見つめてくるイルミに「何ですか?」と問うと、イルミは自分の膝を軽く2回叩いた。
それが何を意味しているのか理解出来ず、首をかしげるとイルミがもう一度膝を叩いた。
ヒソカに助けを求めるように見えるとヒソカはニコっと笑いながらタワーのてっぺんに指で弾いてそれを崩した。
「え? うわぁっ!」
腕を引かれ、気が付けばイルミの膝の上に頭を乗せていた。
すぐに起き上がろうとしたが頭を押さえつけられ身動きが取れず「何!? 何ですか!?」と目だけでイルミを見上げた。
「にはそうやって寝て欲しいみたいだよ」
「へ!? で、でもこ、これって……!」
「膝枕だね」
「ひっ!!!」
叫びそうになる口を大きな手が覆う。
ゆっくりと頭を上げてイルミを見上げるとカタカタと笑っているように見えた。
口元を抑える手を軽く叩くとその手は外れたが違和感があった。
いかつめな顔に似合わず手はゴツゴツしておらず、滑らかだった。
指も細く、男性にしては綺麗な手でその手はまるで”イルミ”のようだった。
*****
人肌の温もりが心地良かったのかが眠りに落ちるのは早かった。
小さな寝息が漏れだしたのを見てヒソカは「あんまり見せつけないでくれよ」と笑った。
「……まさか本当に寝るとはね」
「疲れてるんじゃない? 何も知らないお姫様にとって今日は大冒険だと思うよ」
「いや、そうじゃなくて。オレ、今ギタラクルだよね?」
「そうだよ?」
「……他の男の膝だよ? 普通寝る?」
「そんな不機嫌な顔になるぐらいならさっき針抜けば良かったじゃないか」
「煩いなぁ」
の頭の上に手を置きながら細い髪の毛を指で遊びながらイルミはカタカタと震えた。
本当は早々にリタイアして欲しいのに上手いこと運んで共に三次試験に臨もうとしているにイルミは溜息を零した。
死者が出ることも珍しく無いこの試験がいよいよ牙を向きだす頃だろうとイルミは感じていた。
その時、もし自分が近くに居なければは恐らく死んでしまう。
付け焼き刃の特訓がそれに太刀打ち出来るとは思えなかった。
「殺し合いとかあるの?」
「ん? 試験のことかい?」
「そうだよ」
「んー。ボク去年は試験官殺して失格だったからわからないけど、最終試験はそうなんじゃない?」
「面倒臭いなぁ」
また始めからタワーを作りながらヒソカはイルミのことを見ていた。
自分が今どんな顔をしているのかわからないだろうイルミを静かに笑いながら「君とお姫様の試合は見たく無いもんだね」と零した。