パラダイムシフト・ラブ2

68

飛行船無いにアナウンスが流れ、一人、また一人と参加者が目を覚ます。
肩を軽く叩かれたも眼鏡をずらしながら目を擦って身体を起した。

「おはよ。もう直ぐ着陸みたいだよ」
「え……もうそんな時間……」

は欠伸をしながら周りで身支度をしている参加者を見ては振り返った。
半目で口元を釣り上げてカタカタしているイルミに頭を下げた。

「膝、ありがとうございました。すぐ寝ちゃったと思います」
「まるで眠り姫みたいだったよ。イルミが知ったらヤキモチ焼くんじゃない?」
「まさか。ギタラクルさんはお弟子さんですよね? イルミさんはそこまで子供じゃないですよ」

立ち上がるヒソカを見ながらは笑った。
使用していたブランケットを綺麗に畳み、もバッグを背負った。
「これ、戻してきますね」と抱えたブランケットを戻しに行くのを見てヒソカが小さな声で「子供なのにね」と意地悪くイルミに笑う。

「そうだね。オレは子供だよ」
「あれ? 素直に認めるの?」
「丁度新しいオモチャが欲しい所だったんだよね」

イルミは服の装飾品の一部をつまみ引っ張る。
鈍く光る針先が出てきた所でヒソカは「……ごめんごめん」と平謝りした。
そんな二人を見ながら「どうしたんですか?」と戻ってきたは首を傾げた。

*****

飛行船が降り立った場所は何も無い開けた場所だった。

「皆様。三次試験のスタートは此処、トリックタワーと呼ばれる塔のてっぺんとなります」
ビーンズは続けて合格の条件が生きて地上まで降りてくる事と制限時間が72時間であると説明した。
それ以外何のヒントもなく、あっさりと飛行船に戻って飛び去ってしまった。
残された参加者達は途方に暮れながらも地上に降りる術を探すべく、各自で歩き回った。
下を覗いた参加者達の「た、たけぇ……!」と言う声を聞きながらヒソカが「どうする?」と首を傾げる。
はモヤモヤした思いを胸に押さえ込みながら隣に立つイルミを見上げた。
目線の高さも肩の位置も何から何までイルミに似ており自然のの眉間に皺が寄る。
もし、”ギタラクル”が”イルミ”だと言うのなら、真っ先に塔から飛び降りて地上を目指すだろうとは思っていた。
この二人なら、やりかねない。

「で、でも! お二人ならひょいって飛び降りて下まで行けちゃうかもですね! 一番乗りですね!」

は勝負に出ることにした。
もしこれで本当に飛び降りたら、白が黒に染まる。
さぁどうする、と二人の返事を待っていると予想しなかった言葉が返ってきた。

「……受験生らしく正規ルートで勿論行くよ。ねぇ?」

ヒソカの言葉にイルミもカタカタしながら頷いた。
「そう、ですか」とイマイチしっくり来ない返答には首を傾げた。
何かもっと確信をつける証拠が得られないか考えていると腕を引かれた。

「お前はこっちだっつーの!」
「キ、キルア君!?」
「っつーかの知り合いだかなんだか知らねーけどさぁ、コイツにちょっかい出すの止めてくんね?」
「あっ! ちょっと!」
「ほら、行くぞ!」

の腕を引っ張って歩くキルアには「ストップストップ!」と声をかけるが止まる気配がなかった。

「特にお前! 兄貴に殺されても知らねーからな!」

イルミを指差してキルアが吠える。
話しを聞いてくれそうにないキルアのことは諦め、振り返るとヒソカが小さく手を振っていた。
折角何か掴めるチャンスだったが今回ばかりは仕方ない。
まだ探れるチャンスは残っているのを信じ、今回の三次試験はキルアと共に行動をすることに決めた。

*****

に手を振るヒソカは「イルミの弟、面白いね」と零す。

「ねぇ、そんなことよりさ」
「ん?」
「もしかして気付いたのかな?」

腕を組みながら首を傾げるイルミを横目にヒソカは腕を降ろして「かもしれないよ?」と短く返した。
が起きてからどこか様子が可笑しかったのを二人は気がついていた。
これまでのフレンドリーな接し方とは違い、少しだけ距離を取り、何かを探っているような目をイルミに向けるのは初めてだった。
その目は”イルミ”と”ギタラクル”の共通点を探しているようにイルミには感じられた。

「やっぱり昨日のヒソカのせいだ」
「えぇー。ボクはただチャンスを作っただけなんだけどなぁ」
「そういうのが余計なお世話って言うんだよ。変に勘付かれたら面白さが減るじゃん」
「とか言って本当は”イルミさぁ〜ん!”ってして欲しいんだろ?」
はそんなことしない。オレだって気がついたら意地でも手助けを拒絶すると思う」
「あぁー、そんな感じだね。彼女頑張り屋さんだからね」

周りが徐々に地面のトリックに気がつき姿を消していく中、遠くの方で5人が均等に距離を取って並び足で地面を突いている姿を見ていた。


2020.12.16 UP
2021.08.05 加筆修正