パラダイムシフト・ラブ2

69

「なんであんな奴らと一緒に居るんだよ!」とキルアはの腕を引っ張りながらキルアを待っている3人の元へと向かっていた。
話した事もないような相手を悪く言うキルアには「ど、どうしてあの人達を悪く言うの?!」と問うとキルアは歩みを緩め、大きなため息を吐いた。

は分かんねーと思うけど、あいつら……特にヒソカからは殺気が出てる。あんな戦闘狂と一緒に居たらも巻き込まれる可能性あるから引き離してんの」
「そ、そんな……今は試験中だよ? それに、そんな事したって何の得にも」
「損得じゃなくてアイツは確実に殺す事を楽しんでる。分かるんだよ……同じだから。それにあのイカれ釘野郎だって絶対に弱くない。むしろ腹の底が見えねぇからオレならまず近づかないね」
「でもギタラクルさんはイルミさんのお弟子さんだよ? 一次試験だって助けてくれたし、そんな悪い人じゃ……」
「兄貴に弟子が居るなんて聞いた事ないし、こっちの業界では兄貴の名前は知れてる。そんな嘘付いてまで一般人のに構うっつーことは何か裏があるとしか思えねぇ」

裏があると言われてもには何も思いつかなかった。
もしキルアの言う通り偽りの情報で自分に近づいたとして何のメリットがあるというのだろうか。
ただ自分の身を守る事しか出来ない人間に何の旨味があるというのか。

「裏って……私に価値なんて、ないよ」
「あるだろ? どんな奴でも簡単に殺す兄貴が唯一隣に居る事を許してんだから」
「……私はたまたま拾われて……」
「もしその情報が外部に漏れてたとしたら間違いなく狙われるのはだ。を殺せば兄貴に何らかのダメージが入るだろうって考えるやつはいるかもしれない。ただ、どこでの情報が漏れたかは分かんね。ウチの家族がそんなヘマをするとは思えねぇけど……。でも本当に、だけなんだよ。兄貴が連れてきた女って」

言い終わるとキルアは口を噤んでしまった。
裏の世界の事は自分なんかよりもキルアの方がずっと知っているだけには何も言い返せなかった。
それでも短い間ではあるが、少なくともキルアよりかはあの二人と接している時間が長いだけに半信半疑だった。
もし本当にヒソカが殺しを楽しんでいるとしたら、それは到底理解出来る考えではない。
もし本当にギタラクルが何らかの意図を持って自分に近づいているのであれば警戒しないといけない。
自分には感じ取れない物を感じ取れる小さな背中を見つめながらはキルアが言った”同じ”がどんな意味なのか気になったがそれを聞けないまま、クラピカ、ゴン、レオリオと合流した。

「キルア! そんな奴ほっとけよ!」

合流早々、やはりの存在に吠えたのはレオリオだった。
嫌われている自覚はあったが、面と向かってそう言われると申し訳なさがこみ上げてくる。
この三次試験がどんな試験かは分からないが、やはり自分は単独もしくはヒソカ達と行動を共にした方がキルアのためではないだろかと考えてしまう。
それでもキルアは握った腕を離さず「だーから、は悪い奴じゃねーっつーの!」とフォローしてくれるが年下に庇われてばかりでは大人としての面目が無い。
逃げる事は簡単だが、逃げた後の評価を取り戻すのは凄く難しい。
此処が一番の踏ん張りどころだと感じたは自分の代わりに反論するしてくれるキルアに「キルア君、ありがとう」と声をかけた。

「私の事が信用出来ないのは分かります」
「おー! そーかよ! ならさっさとどっか行けよ!」
「レオリオ! そんな言い方しなくても……だって知ってる人と一緒に居る方が心強いんだと思うよ」
「私もレオリオの意見には若干同意見だ。あの者達と一緒に居るという事は恐らくその筋の……」
「だーかーらー! は違うっつーの! な?」

3人の目がに向けられ、はハッキリと「私はハッキリ言って足手まといです」と告げた。
その言葉にキルアは大きな目を更に大きくさせて「おい!」と反論する姿勢を見せたが、小さな肩に手を置いた。

「何か特別な事が出来る訳でも、武力や体力に長けている訳でもありません。一緒に居れば絶対に足を引っ張ります。そう評価して頂いて構いません。ただ、私自身を見ずに周りの交友関係で評価を落とす事は暗にキルア君の評価を落とす事に繋がりませんか?」
「はぁ?」
「お二人はヒソカさん達と一緒に居た私を”そういう風に評価”するのであれば、キルア君はどうなんですか? ”そういう評価”はしないんですか? 私を、皆さんの輪の中に混ぜようとしてくれる行為はどう評価するんですか?」

クラピカとレオリオは黙ったままだった。

「人を判断するのは、まずその人自身を見てからにしてください。なので……」

ピリつく雰囲気の中、は4人の顔を見た後「精一杯頑張るので、宜しくお願いします」と頭を下げた。
人のイメージはそう簡単に変わらない。
お互いツンケンしていては前に進まないし、後退するばかりだ。
相手が近づいてこないのなら、自分が近づいていけば良い。
本音でぶつかって自分を知ってもらい、理解してもらえれば必然と互いに認め合える関係性が構築出来ることは営業時代に教えもらった。
まさかこんな所でその経験が役立つとは思わなかった。

「オレはまだの事全然分かんないけど、匂いで優しくて真っ直ぐな人だって事は分かるよ」
「……ゴン君」

はゆっくりと頭を上げてゴンをまっすぐに見つめた。
嘘偽りのない純粋な言葉とその瞳には小さく笑った。

「確かに、私も判断が早すぎたな。すまなかった。撤回させてくれ」
「オ、オレはまだ認めてねーからな!!!」
「認めてもらえないのは慣れてます。焦らずいきましょう」

はバッグの内ポケットに忍ばせてある4枚のコインを思い出した。
自分を見てくれて、自分を評価してくれたことで貰えた4枚のコインのためにも此処で簡単に諦めるわけにはいかない。
努力や姿勢は必ず見ている人には届く。
そう教えてくれたのはゴトーだ。
身体で教えてくれたその考え方はの背中を押してくれる。
小さな一歩を踏み出せたような気がしたは「絶対に次の試験に進みましょう」と意気込んだ。

*****

ここで問題になったのが周りの参加者が明らかに少なっている事だった。
「で、他の連中は何処に隠れたわけ?」というキルアの言葉では初めてそれに気がついた。
当然以外の4人は気がついていたようだ。

「それに関してなんだが……」

クラピカがそう言うとゴンはしゃがみ、目の前の地面に触れた。
「隠し扉を見つけたんだ」とゴンは手に力を入れると、四角の集合体でできた地面が一瞬沈んだ。
ゴンの話によれば隠し扉はいくつかあり、一度使用された隠し扉は二度は使えないという事だった。
そして、発見出来た隠し扉が必ずしも正解である保証は何処にも無いということ。
罠が含まれている可能性をクラピカが指摘しながら話し合いの末、同じタイミングで皆が隠し扉に乗るというものだった。
5人は均等に並び、がつま先で動く感覚を確かめているとキルアは「どーせのがハズレだろ」と笑った。

「も、もしかしたら大当たりかもしれないよ!?」
「ハズレだったら大人しく帰れよ?」
「帰りません!」
「とりあえず、皆とは此処で一旦お別れだね」
「地上で再び会おう」
「ま、せいぜい頑張ろうぜ」
「じゃあ行くぜ?」

カウントダウンを皆で行い、同時に5人は隠し扉の上に乗る。
何度味わっても慣れない浮遊感には叫びながら皆と同じ場所に降りれる事を祈った。


2020.12.19 UP
2021.08.05 加筆修正