パラダイムシフト・ラブ2

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ペナルティとなる50時間を過ごさなければならない部屋に到着した一同はまずを一人掛けのソファに静かに座らせた。
眠っているように見える顔でも、身体に受けたダメージの事を考えると死んでいるようにも見えた。
キルアが何度か頬を叩いてみるがは一向に目を開ける気配を見せない。

「なぁ、本当には眠ってるだけなの?」
「眠ってるだけだぜ?」
「ならそのうち目を覚ますんじゃないかなぁ?」
「今は安静にしておいた方が良いかもしれないな」

結果的にメンバーの中で一番ダメージを受けてしまったのは他ならないだ。
レオリアがの向かいに座るとキルアとをじっと見つめた。
その視線は何かを監視しているかのようだった。

「キルア。ところでさっきの技はどうやったんだ?」
「ん? さっきの技?」

クラピカに振り返ったキルアは首を傾げた。

「相手の心臓を瞬時に奪っただろ?」
「あぁ、あれ。技って程のもんじゃないよ。ただ抜き取っただけだ」
「抜き取った?」
「ただしちょっと、自分の肉体を操作して盗みやすくしたけど」

キルアは自分の手元を見せて指先に力を入れた。
爪が鋭く伸び、指先も伸びる様にゴンとレオリオが驚く。

「殺人鬼なんて言っても結局アマチュアじゃん。オレ一応元プロだし。でも、親父はもっと上手く盗むぜ。抜き取る時、血が一滴も出ないからね」
もキルアみたいにプロになるの?」
? 親父達と兄貴はそう望んでるかもな」

キルアは鼻で笑ったあと、を見ながら「けどオレは違うよ」と零して俯いた。

「さてと、後丸二日以上あるぜ。もまだ目覚めねーし、部屋ん中で暇をつぶせるものが無いか探してみようぜ!」

立ち上がったキルアはコロっと表情を変えて立ち上がった。
キルアの意見に同意したゴンはキルアと共に部屋の中にお宝が眠ってないか探しに行ってしまった。
クラピカは一息つきながらレオリオの隣に腰を下ろし「どうしたレオリオ?」と尋ねた。

「……クラピカ。お前はの事をどう思う?」
「どう、とは?」
「本当に信用出来るのかって話だ。暗殺一家のエリートに囲まれて暮らしてんだぜ? 何か裏とかあるだろ普通。初戦だって、わざと負けたとか……変なのとも連んでるしよ」
「正直まだ分からない。ただ、少なくともこの参加者の中で一番殺気が無いのは彼女で、初戦の相手に対しても殺意はなかったのは確かだ。キルアの話を聞く限りでは暗殺の技術はないようだが……なら何故あのような連中と知り合いなのか、は気になるところだな」
「……だよなぁ。じゃ、ご本人の口から聞くとするか」

レオリオは鞄を開けると小瓶を一つ取り出した。
注射器を取り出して液体を吸い上げると目線と同じ高さに持ち指で軽く注射器を弾いた。
突然の行動にクラピカが「何をしている?」と問うとレオリオは「起こすんだよ」とだけ答えた。

「起こす?」
「オレが打った麻酔は睡眠導入の一種だ。だから麻酔から覚醒させる薬剤を打てばは目覚める」
「しかし、自然に目覚めるのを待った方が良いんじゃないのか?」
「本来麻酔ってのは体重と身長から投入する量を決めるんだ。念のためにオーバーに打ってあるから長時間の睡眠は危険っつー訳だ」

レオリオは注射器を持ちながらの前まで歩き、静かにしゃがんだ。
力が抜けている腕をとり、脈を確認してからレオリオは注射針を差し込むとゆっくり液体を流し入れる。

「本当に目覚めるのか?」
「あぁ。10分から20分ってところだな。医者志望だから信じてくれて良いぜ」
「……ヤブにならない無いことを祈るぞ」

が目覚める間、レオリオはクラピカの隣に戻ると腕時計に視線を落とし、クラピカはを見つめていた。
部屋を散策するキルアとゴンはテレビを見つけ、ゲームを始めていた。
勝った負けただの騒ぐ横でレオリオとクラピカはじっとが目覚めるのだけを待っていた。

15分程経過した時、は身をよじった。
重たそうな瞼をゆっくりと開けたは「ん……あれ?」と見慣れない部屋に首を傾げた。
その声にいち早く反応したのはキルアで、遊んでいたコントローラーを放り投げてに駆け寄った。
レオリオとクラピカも立ち上がり、の元に集まるとキルアをから引き剥がした。

「おい、何すんだよ!」
は怪我人だろうが。今は安静にしてるのが一番だ」

ぼんやりしているの前に人差し指を立てて「何本に見える?」と言うレオリオには「……1本です」と答えた。
体を動かそうとすると背中に痛みが走り、が顔を歪めると側に来たゴンが「背中を強く打ってるから動いちゃダメだよ」と教える。
自分の身に起きたことをゆっくりと思い出したは頭を抑えながら「勝負は、どうなったんですか……?」と聞いた。

「3勝2敗でオレ達の勝ち」
「今はペナルティで50時間をこの部屋で過ごさなくちゃいけないんだ」
「ペナルティ……何か、あったんですか……? もしかして、私が、負けたから……ですか?」

が頭を抑えながら「ごめんなさい」と謝るとクラピカがすぐに「いや、は関係無い。どっかの下品な男のせいだ」とフォローした。
それに対してレオリオは「お、男ならアレはしょうがねぇだろ!!!」と拳を作りながら弁明する。

「スケベ親父め。その汚れた手でに二度と触んなよ。レオリオ菌が移るだろ」
「てんめぇこのクソガキがぁ!!!」

多数決が始まる前の雰囲気に似ていては安堵の笑みを作った。
口元を押さえてクスクス笑うを見ながら4人は小さく安堵のため息を漏らした。


2021.01.05 UP
2021.08.05 加筆修正