パラダイムシフト・ラブ22

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は一度深呼吸をすると真っ直ぐにキルアを見つめた。
大きくて真っ直ぐな瞳を見ると、真実を伝えるのが怖くなかった。
もし拒絶されたら。
それでも伝えると決めた以上は腹を括らなければならない。
は「実は、私はね」と零してから口を噤んだ。

「何だよ」
「……この、世界の人間じゃ、無いんだよ」
「は?」
「それは本当か?!」

起き上がったクラピカと目が合い、は言葉を詰まらせた。
これにはキルアも驚いた様で固まってしまい、二人の反応を見たクラピカは顔を押さえながら「すまない」と小さく謝った。
本人によれば決して盗み聞きをするつもりではなかったと言う。
ただ、起きてはいたが声をかけるタイミングを失ってしまったことでの信じられない言葉につい反応してしまったと改めて謝罪した。

「……心臓止まるかと思ったぜぇ!」
「申し出辛い雰囲気ですみませんでした」
「いや、気にしないでくれ……元を言えば私がすぐに声をかけていれば……しかし、今が言った事は本当なのか?」

はゆっくりと頷き、自分が元々居た世界にはハンターという職業は無く、文字も全く異なる世界に居た事を話した。
もちろん暗殺を生業とする人はいるかもしれないが、大々的に公表されているわけではない事と、普通の人は会社員として生活している事も話した。
こんな事を急に話したところで信じてもらえないと思ったが、二人の反応は予想外だった。

「そっか……だから文字読めなかったんだな。ってことはもその、社会人ってやつだったのか?」
「そうだよ。ミルキさんみたいにモニター2台使ってポスターとか、資料とか、販促物のデザインをやっていたんだよ」
「スゲーじゃん。じゃぁブタ君いらねぇじゃん!」
「いや、ミルキさんのような事は出来ないよ?!」

「なぁんだ」とあからさまに残念がるキルアに「あれは職人芸だからねぇ」と教えるとキルアは興味なさそうに「ふーん」とそっぽを向いてしまった。
そしてクラピカは「一つ教えてくれないか」と片手を上げた。
冷静な着眼点を持つクラピカの質問は何と無く予想が出来たはゆっくり頷きながら「どうぞ」と言った。

「キルアの兄はこちらの世界……の人間のはずだが」
「……私自身も正直よく分かってないと思うんですけど、念ってものがあるらしくて……それの力で一時的に私の世界に来たんです」
「念? 聞いた事無いな……」
「見えない力って言うんでしょうか? 出来る人も居れば、出来ない人も居るとかで……訓練が必要みたいですよ?」
「ふむ……試験が終わったら調べてみるとしよう。それで、今はこちらの世界……に居るのはどういう事なんだ?」

イルミとの生活を約1ヶ月程過ごしたことで自分の人生のあり方に疑問を持った事を素直に話した。
それと同時に”殺し屋としての人生”しか知らないイルミに同情したこと、違う生き方もあること、自分の人生を一度リセットして一から始めてみたいこと、一緒に居て楽しかった事、そして次第に惹かれ、この人と一緒に違う人生を見てみたいと思った事で自分の世界を捨ててイルミが生きる世界に来た判断を自分でした事を説明した。
言葉を失う二人には笑いながらイルミが目の前で人を殺した事は無い事をキルアに言うとキルアは思わず大きな声を出した。

「嘘だろ!? あの兄貴が!? ありえねぇよ!」

キルアの声に反応したのはゴンだった。
くぐもった声を出しながら「なーに……どうしたの?」と目を擦って身体を起こした。
「やべっ!」と小さく声を出したキルアは身体を小さくさせた。

「すまない、ゴン。起こしてしまったか?」
「んー……なんか、あったの?」
「いや、打った箇所が痛むと言うをキルアが心配しただけだ」
「え? そうなの? 、大丈夫?! レオリオ起こそうか?」

大きなクリクリした目をパチっと開いたゴンがの側に寄る。
優しい気遣いには寝ている時に捻ってしまったかもという事と痛みが引いてきた事を伝えるとゴンは「良かった」と安堵のため息を漏らした。

「痛い時はちゃんと痛いって言わないと駄目だよ?」
「そうですね、ありがとうございます。でも、本当に大丈夫なので」
「……なら良いんだけど。無理はしないでね? じゃないとキルアもオレも、クラピカやレオリオだって心配になるからさ」
「ゴン君は優しいですね」

側に来たゴンの頭を優しく撫でるとゴンは「えへへ」と笑った。
その様子を見ながらクラピカは「ゴン」と呼んだ。

「何? クラピカ」
「ゴンから見ての印象はどうだ?」
「……んー。優しくて、真っ直ぐで、強い人かな! でも何で?」
「いや、私も同意見だ。、君は強い女性だ。私には真似出来ないと思う。偏見で君を判断していた事を許して欲しい」

クラピカの言う”真似出来ないと思う”というのが自分の世界を捨てて見知らぬ世界に来る決断の事を言ってる事を理解したは「自分の気持ちに従っただけですから」と答えた。
話の流れを理解していないゴンはクラピカとを見ながら「ねー、何の話?」と首を傾げた。

「さ、も大丈夫みたいだし、さっさと寝ようぜ」

キルアは毛布を被るとの横で丸くなった。
急なキルアの行動に3人は言葉が出なかったが、すぐにクラピカは「そうだな」と笑って毛布を被った。
「ねぇ何の話してたの?」と尋ねるゴンには微笑みながら「初戦の相手は怖かったなぁって話ですよ」と返した。
残されたペナルティの時間は後20時間。

「あの時の、カッコ良かったよ」
「ありがとうございます。ゴン君の勇姿を見れなかったのは残念です」
「オレろうそく消しただけだよ?」
「ならその話、明日起きたら聞かせてください」
「うん! 良いよ!」

ゴンは自分の毛布を手繰り寄せ、キルアとは反対側のの横に腰を下ろすとそこで丸くなった。
弟のような可愛い存在である二人に囲まれても目を瞑ったが、横で丸くなるキルアだけは薄っすらと目を開けていた。


2021.01.05 UP
2021.08.05 加筆修正