パラダイムシフト・ラブ2

79

ゴールの1階では制限時間残り3分のアナウンスが流れる。
落ち着きのないように揺れるイルミの横でヒソカは目を瞑りながら時間の経過を感じていた。
松明の炎が大きく揺れるとヒソカは少しだけ目を細めて「来たんじゃないかな?」と小さく呟いた。
石の扉がゆっくりと上り、そこから出てきたのは砂煙りで汚れた3人だった。

「第20号404番クラピカ、第21号99番キルア、第22号405番ゴン。所要時間71時間59分」

出てきた3人をヒソカは横目で見ながら「あらら」と小さく笑った。
すぐに立ち上がり、今にもキルアに物申しに行きそうな勢いのイルミの腕を掴むと「慌てない慌てない」とウィンクを送る。
しぶしぶと言った様子でイルミはもう一度腰を下ろした。

とレオリオは……間に合うよね?」
「もう時期来るだろう」
「ッチ。なぁにが”オレはの主治医だ”だよ。まだ免許持ってねーくせに。あーケツイテェ! 短くて簡単な道が滑り台になってるとは思わなかったぜ」

残り30秒のアナウンスが流れると同時に姿を現したのはとレオリオだったが、その姿を見たヒソカは口元を押さえながら「あらら」ともう一度言った。
お姫様のように抱えられたの足は血に染まり、その血液と思われる痕がレオリオのシャツに広範囲で広がっていた。

「ったく……普通あそこで転けるか?」
「ご、ごめんね。でも、滑ってる間はレオリオさんがシャツで押さえて止血してくれたからもう止まってるよ」
「そういう問題じゃねー、よっ!」
「痛い!」

右足を上げて見せるの額をキルアが指で弾く。

「手は豆だらけだが、5人揃ってタワーを攻略出来たな」
「そうだね! が咄嗟に閃いてくれたおかげだよ!」
「一人で残るとか言い出した時はぶっ殺してやろうかと思ったけどな」

理想の形でゴール出来た事に喜びあい、クラピカとゴンが感謝を述べる。

「長く困難な道から入って壁に穴を開け、短くて簡単な道に入るなんて……よく思いついたものだ」
「レオリオさんの一振りで壁に亀裂が入ったのを見て、咄嗟に……レオリオさんがノーコンで良かったです」
「あれは重かっただけだ!!!」
「でも、の閃きでゴール出来たのは事実だぜ?」

は小さく頭を横に振ったあと、レオリオを見上げた。

「レオリオさんが、最後に私を信じてくれたおかげです」
「……仲間、だからな。信じるのは……当然だろ?」

レオリオはの頭を乱暴に撫でながらそっぽを向いた。
そして第三次試験終了のブザーが鳴り、通過出来たのは26名だがそのうち一人は死亡したことにより正式な通過者は25名の参加者であることが発表された。
仲違いはしたものの、こうして5人でゴール出来た事に喜びを感じたのも束の間だった。
舐めるような視線を感じたは咄嗟に振り返ると、小さく手を振るヒソカとカタカタ揺れているギタラクルの姿が目に入った。
本来なら何も考えずに手を振り返すところだが、今はそれが出来なかった。
事実を確認するまでは疑わないといけない。
その気持ちからは無視して前を向いた。
ゆっくりと開かれるドアから差し込む外の光に目を細めながらは小さく息を吸い込んだ。

*****

光の奥へと消えていくの背中を見ながらヒソカは「無視されちゃったね」とイルミに言うと小さな舌打ちが聞こえた。

「どうせ変な入れ知恵でもされたんだろ。それよりさ、試験中って参加者殺すと何かペナルティとかあるの?」
「ん? 無いと思うよ?」
「ふーん」
「もしかしてお姫様を抱えていた彼を殺そうとか考えてる?」
「うん」

立ち上がるイルミを見上げながらヒソカは小さく「お姫様に好かれた人は大変だね」と笑った。
ヒソカも立ち上がり、二人は出口へと向かって歩く。
久しぶりに味わう外の空気と風に参加者たちは各々の反応を見せていた。

「あのルーキー達はダメだよ。ボクの大事な青い果実達だからね」

次の試験が始まる前に釘を刺すヒソカにイルミはもう一度舌打ちをした。

「諸君。トリックタワー脱出おめでとう。残る試験は第四次試験と最終試験のみ。第四次試験はあのゼビル島にて行われる」

第三次試験官であるリッポーが参加者の前に立ち、後ろに浮かぶ島を親指で指した。
残る試験は後2つと知り参加者達は希望の笑みを浮かべる。

「では、早速だが」

リッポーが指を鳴らすと助手と思われる男が小さな箱を乗せた台車を押してきた。
どうやら箱の中にはくじが入っているようで、これからそれを引くらしい。
一体その行動に何の意味があるのか疑問に思った参加者達は困惑の表情を浮かべる。

「狩る者と狩られる者。この中には25枚のナンバーカード、すなわち今残っている諸君らの受験番号が入っている。それではタワーを脱出した順に一枚ずつ引いてもらおう。では、一番目」

「お先に」とヒソカはイルミに片手を上げて前にでる。
箱の中から一枚のカードを取り出して、小さく笑ってその場から離れた。
次に箱の中からカードを引くのはイルミで、躊躇いなく勢いよく箱の中に手を入れると乱暴に取り出した。
そのカードには番号を隠すようなシールが貼られていた。
イルミはカタカタ揺れながらヒソカの横に並ぶと今にも捲りたそうに指を動かした。

最後の一人、が引き終わるのをリッポーが見届けるとカードに貼られているシールを剥がすように指示した。
皆が一斉にシールを捲ると緊張感が生まれる。
そのカードに書かれている数字がターゲットであると説明したリッポーは不敵な笑みを浮かべた。
咄嗟に参加者は自分のナンバープレートを手で隠すが、ヒソカとイルミだけはそのまま説明を聞いていた。

「今、諸君らが何番のカードを引いたかは全てこの箱のメモリーに記録されている。従ってもう、そのカードは各自自由に処分していただいて結構。奪うのは、ターゲットのナンバープレートだ」
「なんだぁ、命の取り合いじゃねぇのか」

安心したかのような参加者の発言にリッポーの眼鏡が光る。

「もちろん、プレート奪う手段は何でもあり。まず命を奪ってからゆっくり手に入れても構わない」

リッポーは次に試験の内容を説明した。
自分の所持しているナンバープレートは3点であり、ターゲットのナンバープレートも3点。
それ以外のナンバープレートは1点とされる。
最終試験に進むために必要な点数は合計6点。
ゼビル島滞在中に6点分のプレートを集めた者だけが最終試験に進めるという内容だった。

自分のターゲットの番号を確認したヒソカはクスクス笑いながら番号のカードをイルミだけに見えるように見せた。
書かれていたのは384。
青い果実達の番号でもなければイルミの番号でも無いことにヒソカは口を尖らせながら辺りを見渡した。
ほとんどの参加者が服からプレートを外しており、誰がどの番号か開幕分からない状態に「正しい判断だね」と頷く。

「ところで、君は?」

その言葉を待っていたのかようにイルミは人差し指と中指の間に挟んだカードをヒソカに見せた。
書かれた番号を見た途端、ヒソカの口元が釣り上る。

「あーあ。どうするんだい?」

イルミは何もか耐えない代わりに小さく揺れた。
その番号に書かれていた数字はイルミの一つ前の番号で、406番だった。


2021.01.05 UP
2021.08.05 加筆修正