パラダイムシフト・ラブ2

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船の上で2時間過ごす間、はヒソカとの話の内容を隠したままキルア達と過ごした。
ヒソカと別れる時に言われた「気をつけないと取られるからね」という言葉がの頭の中で響いていた。
もし、ギタラクルが本当にプログラムで動いているとすれば何かしらの行動基準があるかもしれないとは考えた。
自分の監視の目的が何なのか分からないが考えられる目的としてはハンターライセンスを持つに相応しい人間かどうか、又はゾルディック家に貢献出来る人間なのかの二択になる。
どちらの目的でも否定的な判断が下出されたら即脱落させるようなプログラミングがされているとしたら、ギタラクルは真っ先に自分のプレートを狙いにくるだろう。
そう思うと血の気が引き、船がゼビル島に近づくにつれの気持ちが沈んでいく。
自分は十分な成績を残せてるかと問うば、答えは否だ。

「皆さんお待たせしました! ゼビル島に到着でーす! それでは、第三次試験のクリアタイムが速い人から順に下船していただきまーす!」

最初に島に入るのはヒソカだ。
一瞬ヒソカの方に目をやると小さなウィンクが飛んできてはすぐに顔を背けた。

「一人が上陸してから2分後に次の人がスタートする方式をとりまーす! 滞在時間はちょうど1週間。その間に6点分のプレートを集めてまたこの場所に戻ってきてくださーい! それでは一番の方からスタート!」

ガイドの掛け声とともに、ヒソカが前に出るとそのまま下船した。
2分経過後にイルミが下船し、森へと入っていく。
ガイドの声と共に続々と参加者達が下船し、その様子をただただ達は黙って見つめていた。
そろそろクラピカの番が近づいてきた時、クラピカはに振り返り「はキルアと共に行動すると良い」と言った。

「キルア君と、ですか?」
「あぁ。この中で君を守れるのキルアだろう」
の事ならオレに任せてよ」
「でも……」

はギタラクルのターゲットがもしかしたら自分かもしれない事実を伝えようか迷っていた。
不安そうな表情を浮かべるにキルアは胸を張りながら「オレと居れば間違いねーよ!」と自信満々に言う。
その様子にクラピカは頷きながら「を任せたぞ」と伝えて、下船した。
次に呼ばれたのはキルアだった。

「じゃ、また後でな。とりあえず入ったら森でも探索しよーぜ」
「う、うん」

キルア、ゴン、レオリオを見送り、最後にが呼ばれた。
下船したあと、目の前に広がる森が怖かった。
自分以外の参加者はもう森の中に入っている。
ターゲットのプレートを狙う者も居れば、無差別にプレートを狙う者だって中には居るかもしれない。
そうなれば真っ先に狙われるのは自分であることは自身分かりきっている事だった。
キルアが一緒に居てくれるのは心強い事ではあるが、本当にそれで良いのかと疑問が湧いてくる。
今までの試験、自分の力で突破出来たのは第二次試験のみだった。
最終試験がどんな試験か分からないが、せめて最終試験への切符は自分の手で掴みたい。
その為にはギタラクルから逃げ、誰だか分からないターゲットのプレートを奪う必要があるがはっきり言って勝算は低い。
ターゲットが分からない以上手当たり次第にはなるが、奪えるのなら自分の手で奪いたい。
いつまでも守られてばかりいては、結局”守られている”というレールの上を進んでいるだけのように感じ、の眉間に皺が刻まれる。

「おーい! ! 早く行こうぜー!」

茂みの中から顔を出したキルアが笑みを浮かべながら手を振っていた。
この笑顔を崩したくはないが、一時的にもキルアと離れなけらばギタラクルとは接触出来ないような気がした。
は「ごめんね」と笑いながらリュックを背負い直し、茂みへと入っていった。

*****

森の中に入ってすぐにイルミとヒソカは合流し、木の枝に腰掛けながら森の中に入ってくる参加者を見下ろしていた。

「そういえば、君が寝ている間にお姫様と少しだけ話したよ」
と?」

少しだけ眉間に皺が寄るイルミの目がヒソカの方に向く。

「うん。君のこと、若干気がついてたね。ギタラクルの正体はイルミなのかって聞かれたよ」
「……何て答えたの?」
「大丈夫、言ってないよ。お姫様はその手で勘付いたみたいだよ」
「手?」
「顔だけじゃなくて手も変えないとバレるって愛を感じるねぇ」
「手、ねぇ」

イルミが自分の手をまじまじと見つめる横でヒソカはクスクス笑いながら「君でも嬉しそうな顔するんだね」と茶化すとコロッと真顔に変えて「してないから」とやや早口でイルミが返す。
木の下を通る参加者を見ながらヒソカは「ねぇ」と意地悪な笑みを浮かべる。

「タワーで聞いたこと、覚えているかい?」
「忘れた」
「……イルミはこの試験、どうするの? ターゲットはお姫様だろ?」

その問いに対してイルミは黙った。
声が聞こえてしまったのかおどおどしながら周りを見ている参加者の一人をイルミはじっと見つめていた。
ヒソカも参加者へと視線を移すと、木々の間に隠れていたもう一人の参加者が姿を現し二人は走りながらその場から去っていった。
この試験は狩られる者と狩る者がテーマだ。
イルミは少しだけ目を細めながらはっきりした口調でヒソカの問いに答えた。

「奪うよ。のプレートを奪って良いのはオレだけだから。他の奴になんか奪わせない」
「へぇ? てっきりボクは適当に3人狩りつつお姫様のターゲットを始末してまた助けてあげるのかと思ったんだけどな」
「この試験でオレだって言うよ。よく分かんないけどはオレの為にこの試験に参加してるみたいだからね。正体がバレてるなら話は早いよ。オレだって言えば諦め……って何笑ってんの?」

ヒソカは手をヒラヒラと振りながら「いや、それがさぁ」と続けた。

「話の流れでギタラクルがお姫様の監視役って事は言っちゃったんだけど、嘘吐いちゃった」
「は?」
「もしかしたら彼女の前で針を抜いても信じてもらえないかも」
「何それ? に何言ったの?」

イルミの声のトーンが落ちる。
ヒソカは船でに伝えた嘘の話の内容を教えると「……本当にはそれ、信じたの?」と不審な顔表情を浮かべながらイルミは首を傾げた。
ミルキは確かに人形収集の趣味はあるが、それはあくまで美少女キャラクターだったりアニメや漫画のキャラクターだ。
それにいくらゾルディック家のIT部門を担当しているからと言ってイルミのコピーを作れるほどの技術は無い。
少し考えれば分かることではあるが、ヒソカが言うにはその話をは半ば信じている様子だと言う。

「だから針を抜いても君だとは思わないかもね」
「ヒソカの話は信じるなって言っておくんだった」

深いため息がイルミの口から漏れる。

「二人で最終試験を受ければ良いじゃないか」
「最終試験はどうせ個人戦だろ。今のじゃ簡単に死ぬよ」
「その時は君が負けてあげれば良いじゃないか」
「オレと戦える保証なんてどこにもないから。って言うかオレはそもそもにライセンスは必要ないと思ってるぐらいだよ」

「ふぃん」とヒソカは小さく零し、また木の下を通る参加者達に視線を戻した。
時間的に半分ぐらいの参加者が森に入ったところでヒソカは「まぁボクは適当に遊ぶからさ」と腰を上げる。

「イルミは楽しめば良いと思うよ」
「楽しむ?」
「お姫様とイチャイチャ」
「ヒソカでもイチャイチャとか言うんだ」

”突っ込む所はそこじゃ無いだろ”と言いた気な顔をしながらヒソカは髪の毛を撫でて形を整える。

「いろいろと本音が聞けるかもよ?」
「何それ」
「女の子ってデリケートなのさ。直接本人には言えないような秘密とか、あるかもしれないよ」

ヒソカは枝から離れる前に「じゃあね、マシンドールさん」と一言残して飛び降りた。
残されたイルミは膝に頬杖をつきながらが森に入ってくるのを静かに待っていた。


2021.02.09 UP
2021.08.05 加筆修正