パラダイムシフト・ラブ2

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二人の近状を聞きながらはどこまで自分の話をしようか迷っていた。
その感情が表情に出ていたのか、いち早く気がついたレオリオが首をかしげる。

「で、何でお前さんはキルアと一緒じゃねーんだよ」
「良ければ詳しく聞かせてくれないか?」

二人の目を見ると黙っている事に申し訳無さを感じ、はゆっくりと口を開いた。
最初は確かにキルアと一緒に行動をしていたが、途中でトラブルがあって自分は離れたことを伝えると二人は何か言いたそうな表情を見せたが黙ってきてくれた。
その後はなんだかんだ一人で行動し、運良く今は6点分のプレートを所有している事とリタイアを考えていることを素直に零すとそれまで黙って聞いていてくれたレオリオが「ふざけんなよ!」と自身の膝を拳で叩く。
その行動に驚いたは体を萎縮させて小さく「ご、ごめんなさい」と呟く。

「俺達5人は合格するんだろ!? そのために此処まで頑張って来たんじゃねぇのかよ!?」
「ま、待てレオリオ! の事情を詳しく」
「詳しくも何もねぇよ! 目の前に合格点が揃ってるんだろ!? だったら利用してやれば良いじゃねぇかよ!」

熱くなるレオリオの気持ちがわからないわけじゃない。

「……。その6点を手に入れるまでの経緯を詳しく聞いても良いだろうか?」

優しい音色のクラピカの声には小さく頷きながら一言、「人を、一人殺しました」と漏らした。

*****

一通りの経緯を話すとは俯いた。
話を聞き終えたレオリオは驚いた表情をしながら「……あいつ、マジでキルアの兄貴だったのか」とポツリと漏らしたのだけは聞き取れた。
顎に手を当ててじっくりと何かを考えている様子のクラピカはどこか違う所を見ていたが、ふいにと目があるとゆっくりと口を開く。

「本当にが殺したのだろうか」
「は? おいおいクラピカ。の話を聞いてなかったのかよ?」
「いや、現場を見ていないので何とも言えないが……本当に針で人間を操作出来るとしたら、死に際も操作出来るんじゃないか?」
「……ってことは、が殺したように見せたってことか?」
「その可能性があるかもしれない、という話だ」
「でも何のためにそんな事するんだよ?」
「憶測になるが、にリタイアしてもらうための施策だったんじゃないか?」
「なーんでをリタイアさせたいんだよ!」
「……それを私が知るわけないだろ! 少しはお前も自分の頭を使って考えろ!」
「考えるのは得意じゃねーんだよ!」

本人の目の前でどんどんと話が展開していく。
自分が殺したわけじゃない、という可能性を今までは考えもしなかった。
確かに自分は技術不足且つ知識不足で、一人じゃ木の実一つも落とせない程に弱い人間なのは重々承知している。
イルミはそれを心配しているようだったが、は可能な限り同じ目線に立ちたいと思っている。
決定的に両者の意見が違うが故の衝突だったのかもしれないと思うと、不思議との心は落ち着いた。

「……ごちゃごちゃ外野が言ってもしゃーねぇ。は、本当にリタイアで良いのかよ?」

後頭部を掻きながらレオリオがを真っ直ぐに見れる。
この試験を通して少なからず仲間が出来た。
こんな優柔不断な自分の話を聞いてくれる信じられる仲間が側に居る。
自分が好きになった相手は根っからの殺し屋だが、それでも一緒に居たいという思いでこの世界に飛び込んだ。
ヒソカの言葉を借りるわけじゃないが、此処まで来て尻尾を巻いて逃げるのは関わってくれた人達に申し訳ない。
迷いは今捨てるべきなのかもしれない。

「……ほ、本当は最後まで、食らいつきたいです」
「なら決まりだな。今は3人で乗り切ろうぜ」
は騙されたんだ。なら今度は騙し返してやればいい」
「最終試験でギャフンと兄貴の鼻をへし折ってやろうぜ!」

3人で拳を突き合わせ、迷いが無いことを宣言する。

*****

開けた場所の丸太に腰掛けてトランプタワーを作っていたヒソカは小さく口角を上げた。
見えない所から飛んできた針がタワーの隙間を通って丸太に刺さる。
クスクスと小さく笑いながら「危ないなぁ」と漏らし、丸太に突き刺さった針を抜いて飛んできた方向に向かって投げ返す。
前髪を掻き上げながら姿を見せたイルミは「危ないのはそっちだろ」と言い返す。

「見回りはもう終わったのかい?」
「うん」
「あぁそう」
が居ないんだけど、見た?」
「ボクが駆けつけた頃にはお仲間さんと一緒に談笑してたよ」
「談笑?」

ヒソカの言葉いイルミの眉が少しだけ動く。
それを面白く感じたヒソカはタワーから一枚だけトランプのカードを手にとって口元を隠した。

「分けてもらったのか美味しそうに果実を食べてたよ」
「ふーん」
「今だけ貸してあげたら?」
「……そうする」

イルミの聞き分けの良い反応にヒソカは持っていたトランプカードを落とし「は?」と口から漏れていた。
自覚の無い独占欲の塊みたいな人間からは予想しなかった反応で「なになに? どうしたの急に?」とヒソカが食いつくのに対して、イルミは無表情でしゃがむと穴を掘り出した。
突然の反応と行動に理解が追いつかないヒソカは「ちょっとぉ、ボクの話聞いてる?」と顔を覗き込むもイルミからは反応が無い。

「ねぇ、どうしたの急に?」

イルミは人1人分入れるぐらいまで掘り進めたあと、漸くヒソカを見て首を傾げた。

「別に?」
「別にって……今までの君なら”どうしてお前が保護しないんだよ”って怒って真っ先にお姫様の元に向かうじゃないか」
「オレ怒ったことないよ?」
「そういうつまらない嘘付くの止めたほうが良いよ。で、どういう風の吹きまわしなんだい?」

掘りたての穴にイルミは飛び込み、ひょこっと顔を出し、少し考えたあとにポツリと小さく漏らした。

「だってオレと居ると食べないんだもん」
「……”だもん”って。え?」
はオレと違ってちゃんと食べないと死ぬだろ? 死なれちゃ困るから今は貸してあげるってだけの話なんだけど?」
「……丸くなったねぇ?」
「オレはミルキじゃないよ?」
「君のそういう所、ほんと面白いよね」

どこか腑に落ちない表情を浮かべながらもイルミは「じゃぁオレ寝るから」と宣言する。
集合時間になったら起こしてくれとお願いをしてからイルミは穴の中に潜り、器用に穴が塞がっていく光景をヒソカは横目で見ていた。

「はいはい」

友人の微妙な変化を感じながらヒソカはタワーを崩し、また初めからタワーを作り始めた。


2022.02.21 UP