コスプレでロン!

チャイナ服でロン!

北乃の発案により毎週水曜日はお客様感謝デーを行う事となり、は通常の制服を着ることを許してもらえなくなった。
マスターに助けを求めてもマスターは苦笑いで返すばかり。
本来はそういう店ではないのだが、が着替えるだけで売上が倍になるのを知ってしまった以上、マスター自身中々止めるという決断が出来ないでいた。

「……今日程休みたい日はないです」
「ほらほら! 無駄口叩いてないでさっさと着替えに行きなさい!」

うじうじするに北乃は高級ブランドの紙袋をに突きつけると、は渋い顔をしながら更衣室へと消えるのであった。

*****

その日、雀荘では1人の真っ赤な蝶が舞う。
髪の毛を左右でお団子にし、真っ赤で豪華な装飾が施されたショート丈のチャイナドレスを着たが店内を忙しなく動き回っていた。
普段は隠れて見えないうなじ、主張する胸の膨らみ、そしてスリットから除く真っ白な太ももが客達の視線を奪って離さない。

ちゃーん!」
「は、はぁい!」

客に呼ばれればすぐに飛んでいく蝶を北乃とマスターが目で追いかける。
慣れない恰好に恥じらいを含ませて歩くその姿は本人が思っている以上に初々しい。
そんなに頬を緩ませる者は多く、噂が噂を呼び一見以外にも初見の客が増えたようにも感じた。
利益に貢献している事を感じた北乃はふとマスターを横目に見つめ、小さく笑った。

カランカランとなったベルにマスターは顔を上げ、は店の入り口へと顔を向けた。
ベルの知らせは客の知らせ。
扉を開けて入ってきた客には顔を緩ませ、笑顔を向けた。
熱いおしぼりを客に渡してからいそいそと入り口へと向かい、中々店の中に入ろうとしない客に笑顔で「いらっしゃいませ」と迎えるが客は一歩も動こうとしない。

「雨宮さん? どうしました?」

入り口に立ったまま中に入ろうとしない雨宮を上目使いで見上げると、雨宮は癖なのか片指を眼鏡に添え、中指と薬指を器用に離してその隙間からを見つめた。
ズイっと近づいた雨宮の顔に思わずの背中が反り返る。

「み、見える……見える見える……!」
「み、見え……る……?」

まっすぐに向けられた雨宮の視線は下り、の胸元で止まる。

「見える見える全てが見える!」
「……どっどこ見てるんですか!」

眼にも止まらぬ速さでの右手が動いた。
瞬きをした時には既に事が終わった後で雨宮は真顔で頭を押さえていた。
恐らく雨宮の頭に手刀打ちが出来るのはこの世でだけかもしれないとマスターと北乃は思った。

「まったく! どうして雀士ってこうも変態が多いの!?」

プリプリとご立腹なはすぐに雨宮に背中を向けて呼ばれたお客の元へ戻る。
それでも懲りない雨宮はぶつぶつと呟きながらの後ろを追いかけた。

「一つ晒せば形を晒す! 二つ晒せば全てが見える! みっつ」
「あ、雨宮さん! そういうのは言葉にしちゃいけないっていうか……まだ文化が無いと思いますけどセクハラって言うんですよ!」

振り返って雨宮に説教を垂れ始める
自分だけを見てくれていると思い込み、悦に浸りながら頷く雨宮。
スカートの中が見えるのではないかと期待して首の角度を90度に傾かせる客達。
そんな中、淡々と自分の麻雀を打ち、対面の客の手から零れた牌に竜が笑う。

「悪いナ。それロンだ」

今日も通常運転で営業中。


2013.06.30 UP
2018.07.25 加筆修正
2019.09.17 加筆修正
2021.08.23 加筆修正