コスプレでロン!

ナース服でロン!

北乃の発案により毎週水曜日はお客様感謝デーを行う事となり、は通常の制服を着ることを許してもらえなくなった。

「……やっぱり今日程休みたい日はないです」
「良いじゃないの。私の目利きでは絶対にこういうの好きな口だから自信を持ちなさい」
「それはそれで変態なような……」

うじうじするに北乃は高級ブランドの紙袋を押し付けると、は渋い顔をしながら更衣室へと消えるのであった。

*****

その日、雀荘では1人の真っ白な天使が舞う。
一本に縛った髪の毛がサラサラと靡き、純白の短い裾からは白い脚が伸び、首にかけた聴診器が悪戯に揺れる。
客の反応は大好評。
休む暇が無いくらいはひっきりなしに呼ばれ、噂を聞きつけた学生達まで来店するようになった。
そんな学生達にが「学校はどうしたの?」「学校が終わってからまたいらっしゃい」と北乃に刷り込まれた大人の女性のセリフを吐けば、たちまちノックアウトだ。
あまりにも客が途切れないため、マスターは早々に終了の立て札をドアに掲げ、客が引くのを待つことにした。
一人、また一人とに名残惜しそうに別れを告げ、帰っていく客の背中は少し寂しそうだった。
最後の一人を見送り、店にはマスター、テツ、北乃、竜だけとなり竜は北乃の隣に腰を下ろして煙草を吸っていた。

「良いチョイスだと思わない?」

北乃の問いには答えず竜はただただがモップ掛けをしている姿を眼で追っていた。
「前回のも良かったけど、私はあっちの方が彼女に合うと思うのよね。
ほら、穢れを知らない天使みたいでしょ?」
北乃が得意気になって言うと、竜の目が北乃に向けられる。
眼で追っていた天使がモップを片づけるために姿を消してしまったため、仕方なしに向けられたような視線に北乃は「汚さないでよ」と小さく残して立ち上がった。
北乃が立ちあがったと同時にトイレから戻ったテツが神妙な雰囲気でいる二人を交互に見ていると、北乃はテツの腕を掴んだ。

「テツ。今夜飲みに付き合ってちょうだい」
「え!? 俺!? あっちょ、ア、アニキィィイ!」

半ば強引に北乃に引きずられる形でテツと北乃は店から出ていき、静まり返った店内に一人竜だけがポツンと取り残された。
ゆっくりと立ち上る紫煙とジッポが閉じたり開いたりと楽し気に音を奏でていると、片付けを終えたが戻り、待ち椅子に座る竜の前に立つ。

「あれ……マミさんとテツさんは? 帰っちゃったの?」
「知らん」
「知らんじゃないでしょ知らんじゃ。ほんっと他人に興味ない人なんだから……」
「……」
「あ、そうだ。今日先帰らないでね?今朝見たら冷蔵庫の中空っぽだったから帰りに一緒にスーパー付き合って欲しいの」

「着替えてくるから待ってて」と付け加えながら髪ゴムを解くと今までまとまっていた髪の毛が空を泳ぐ。
ハラリと舞う髪の毛と更衣室に向かおうとするその背中がいつもより色っぽく見え、気が付けば竜は立ち上がりの手を掴んでいた。

「……何? どうしたの?」

掴まれた腕を視線で辿り、持ち主の竜を見上げる。
無表情からは何を考えているのかは解らないが、何か言いたげな雰囲気を出しているのは分かった。

「ちょっ……え? な、何?」

一歩近づかれる度に一歩下がり、お尻が卓の縁に触れ反射的に片手を卓についた。
こんな時テツが相手だったら聴診器を頭に当てて冗談の一つや二つ言えるのに今回は相手が悪すぎる。
煙草を口から離し、小さなの手首を掴んでいた手がの頬に落ちる髪の毛を優しく耳にかける。

「りゅ、竜……ど、どしたの?」
「それ以上話すと」

煙草を挟む手が後ろに鎮座する卓につき、縮まる距離にの胸が高鳴る。
咄嗟に顔を下げると冷たい指先がの顎を捉え、上を向かされる。

「言葉が白けるぜ」

近づく竜に思わずきゅっと唇を結び、無意識に竜の服を握りしめて目を閉じた。
唇から伝わる甘酸っぱい感情に握りしめる手に力が入る。
一瞬だけ周りの音が何も聞こえなくなり、は唇が離れると共にゆっくりと目を開けた。
獲物を捕らえようとしている野生の目とぶつかり、恥ずかしくなって顔を逸らす。

---カツン

外の足音が二人の耳に届く。
階段を登る音が少しずつ近づき、は竜の身体を押して離れようとするがビクともしない。
それどころからキスを求められ、奪われる。

「りゅっ……う! だめっ……んむぅっ!」

口を開けば舌が迷い込む。
執拗に追いかけられ、絡まれ、音を立てて吸われる。
まるで招かれざる外の人物にわざと聞かせるように激しく繰り返される口づけに眩暈がした。
近づく足音が鼓動を加速させるのには十分で、熱くほてりだす身体は純粋に竜を求めた。

「も……だ……めっ……!」

支える腕から力が一気に抜け、細い腰を瞬時に竜が支えた。
肩で息をしながら口元を抑え、羞恥に目を瞑るを片腕で抱きしめながら竜は胸ポケットからサングラスを取り出した。

「閉店なんて看板立てて置きながらしっかりやってるじゃな……竜ぅううう!! と!」

ぶつくさと文句を言いながら訪れた客はグッタリしているとそれを抱きとめている竜を見て目を見開かせた。
直ぐにずれた眼鏡のブリッジ部分を中指と薬指で支え、離した人差し指と中指の間から片目を覗かせて二人を凝視しする客はピンと伸ばした右手の人差し指を竜につきつけた。

「竜ぅうううううう!!!き、貴様と何してるっ……!」
「……悪いナ。これロンだ」

今日も通常運転で営業中。


2013.07.14 UP
2018.07.25 加筆修正
2019.09.17 加筆修正
2021.08.23 加筆修正