コスプレでロン!

ビキニでロン!

北乃の発案により毎週水曜日はお客様感謝デーを行う事となり、は通常の制服を着ることを許してもらえなくなった。

「……何故今日という日はこんなにも早く来るのでしょうか」
「生きてるからよ。それより先週はもうちょっとだったわね」
「マ、マミさんっ!!!!」
「それよりほら。今日の戦闘服よ。さっさと着替えてらっしゃい」

顔を赤くするに北乃は高級ブランドの紙袋を押し付ける。
仕方なしには渋い顔をしながら更衣室へと消えるのであった。

*****

暑い日差しが照りつける外とは裏腹に室内は冷房が利き、心地のいい癒しと熱い勝負を求めてくる人で今日も賑わう中、その日はハイビスカスの花で出来た髪飾りと歩くたびにはためくパレオがお客の目を奪った。
何時も隠されている胸は今、白のビキニが包んでおり、予想よりも大きいそれに何人の客の喉が鳴ったことか。
笑顔を振りまきながら給仕をする姿はまさに海の家の看板娘。
ウットリしながら北乃は煙草を吸い、小さく「やっぱりあの子良いわぁ……」と呟く。

空いたテーブルで一人麻雀牌を拭く作業をしている中、一人の男が「失礼する」と断りをいれながら上家に腰掛けた。
は手を止める事なく相手の顔を見るなり「私は打てませんよ?」と笑って言った。
真面目な男は小さく咳払いを一つし、の名前を呼んだ。
が顔を上げると泳ぐ目とほんのりと赤い顔が目に入って笑ってしまった。

「そ、その……君はその……そんな恰好させられて……嫌じゃ、な、ないのか?」
「……嫌っていうか恥ずかしいですね。でも、お客さん喜んでくれるんで」
「と、年頃の娘なのだから恥じらうべきだ!」

ぶつぶつと何かを言いながら、いつもの癖が発動する。
ふいっと顔を背けながら眼鏡に片手を添え、離した人差し指と中指の間から瞳を覗かせる。
この不器用な男が言いたいことは"男は皆女に対して下心しか持っていない。
気を付けなければいけない"ということだった。
古風というかなんというか。
ちょっと面白くてからかってみたくなったは拭う手を止め、卓の縁に両肘をついて男の名前を呼ぶ。

「ねぇ雨宮さん」
「な、なんだ……」
「雨宮さんは……いや?」

わざと胸を寄せるようにし、小首を傾げながら真っ直ぐに雨宮の目を見つめる。

「ぐっ……!」
「こういうの嫌い?」
「ぐぬぬ……!」
「だったら……」

硬直する雨宮の視線はの胸と目を行ったり来たり。
わなわなと唇を震わせるウブな大人の開いた手をひしと両手で握りしめ、雨宮にしか聞こえないぐらいの小さな声で囁いた。

「次の勝負で独走だったら……雨宮さんが望む衣装を着ますよ?」

ニコっと笑ってウィンクを一つ飛ばせばたちまち雨宮の顔が真っ赤に染まる。
まるで頭から湯気でも出ているのではないかと錯覚してしまうほどの赤くなりようには心の中で笑った。
ウブだとは噂には聞いていたがまさかここまでだとは思っていなかった。
唇を真一文字に結んだ雨宮はの手を振りほどき、勢いよく立ち上がると震える人差し指がを刺す。

「そ、そそそその言葉! しかと胸に刻んだ!!!」
「ふぇっ!?」
「今直ぐ勝って来てやる! 北乃! テツ! そして……竜! 暇なら一勝負しろ!」
「あ、ちょっ……雨宮さん……!」

待ち椅子に三人仲良く座る三人衆に声をかけると雨宮は早足で隣の開いてる卓に座り、三人が集まるのを待った。
テツはあくびをしながら、竜は読めない表情を顔に貼りつけたままで重たい腰をあげ卓へと向かうなか、北乃はの卓へと少しばかり寄った。

「何を雨宮に吹き込んだか知らないけど……私に負けず劣らずの小悪魔ね」
「ち、違いますよ!!! 私はただ雨宮さんに勝って欲しくて……」
「でも、今日も勝てそうにないと思うけど」
「えっ……」

北乃は小さくウィンクを送ってに告げた。

「容赦ない哭きとロンが見れそうだわ」

首をかしげるに北乃は軽く扇子で頭を叩き「鈍い子ね」と残して卓へと向かった。
そしてその日の一勝負、雨宮の悲痛な叫び声が響いたという。

今日も通常運転で営業中。


2013.08.03 UP
2018.07.26 加筆修正
2019.09.17 加筆修正
2021.08.23 加筆修正