コスプレでロン!

婦警でロン!

北乃の発案により毎週水曜日はお客様感謝デーを行う事となり、は通常の制服を着ることを許してもらえなくなった。
巷でもその噂が広がっているようで水曜日の売り上げをマスターに聞かされた時から、この呪縛からは逃れられないと悟ったは諦めた。

「あ、マミさんが居るってことは今日は水曜日か」
「人で曜日を覚えるのやめてもらえるかしら?」
「だってマミさんいつも夜来るじゃないですか」
「まぁそうね。なら着替えてらっしゃい」
「……はぁーい」

北乃から高級ブランドの紙袋を受け取ったは更衣室へと消えるのであった。

*****

「イカサマしたら、逮捕しちゃいますからね!」

新規で入ってきた客に店のシステムを説明した後には手をL字型にし、客の左胸を人差し指で軽く小突く。
呆気にとられた新参者は無意識に紺色の紺色のジャケットとタイトなミニスカートを纏った少女を眼で追いかけてしまい、常連客に飛ばされた。
小さな婦警が雀荘の安全を守る中、人の常連客が訪れた。

「雨宮さんっ! いらっしゃいませー」
!? 貴様またそんな恰好を……!」
「とか言いつつ指の間からしっかり見てるじゃないですか」

上目使いで見つめてくるの姿は雨宮には刺激が強すぎた。
ジャケットを着ているのにも関わらず盛り上がる胸元、下半身のラインが強調されるミニのタイトスカートに、黒のストッキングを纏うの姿に雨宮がよろめき、北乃の隣に腰を下ろした。

「あ、雨宮さん大丈夫ですか?」
「ちょっと頭に血が上っただけよ。は持ち場に戻って良いわよ」
「……解りました。雨宮さんの事お願いしますね」

小さく頭を下げてからカウンターの方に戻るを北乃は眼で追いかけ後、隣で赤面している男に目をやった。
大の男が若い子のミニスカート姿を見たところで顔を赤くするようでは裏の雀プロを尊敬する輩達が泣くだろうにと北乃は思った。
大きく深呼吸をする雨宮に北乃は小さく溜め息と共に煙草の煙を吐き出す。

「そんな調子じゃ竜には勝てないわよ」
「何っ……? 今日は竜が来てるのか? あいつを倒すのはオレだ……!」
「私が言ってるのはそっちの意味じゃないわ」
「ん? 今日はなかなか難しい事を言うな」
「はぁ……なんで貴方って麻雀以外の事となるとそんな馬鹿なの?」
「ばっ、馬鹿とはなんだ!」

大きな声を上げて立ち上がった雨宮には振り返り、小さく笑った。
なんだかんだでいつもからかわれ、本気でぶつかりに行く雨宮が面白かった。
お互いライバルらしいが、仲の良い麻雀仲間にしかには言えず、自然と笑みが漏れる。

*****

店の閉店準備をしている中、マスターは外に少し用事があるということで途中から一人でお留守番となった。
モップ掛けも牌磨きも終え、後はマスターの帰りを待つだけとなった。
先に着替えて帰りの準備をしようとした矢先だった。
静かにドアが開き、見知った人物が顔を覗かせた。

「み、みゆきさん!?」
「ごめんねちゃん……来ちゃった」

はみゆきに店を教えた覚えはなかった。
呆気にとられているとみゆきは店内に入り、後から相変わらずの無表情を浮かべる竜が立っていた。
大方みゆきが迎えに行くと言って聞かず、道案内でもしたのだろう。

「今日は一段と遅いから……私心配になっちゃって……」
「ご、ごめんなさいみゆきさん……ちょっと今日はお客さんが引かなくて」
「解ってるわ。だって、だってこんなに可愛いんですもの! でもこんな短いスカート履いたらお客さんに眼つけられちゃうわ!」
「み、みゆきさん……苦しい……!」

あまりの可愛さにみゆきはに抱き着き、頭に頬擦りすると腕の中の小さな婦警な苦笑いを浮かべながらみゆきの背中を軽く数回叩く。
まるで妹の心配をする姉のようだった。
身体を離すとみゆきは心配そうな顔をしながらに「どこも触られてない!? 大丈夫なの!?」と詰め寄った。

「だ、大丈夫だって。そういう人にはやんわりと注意するようにしてるから」
「やんわりじゃだめよ! ちゃん可愛いからもしかしたら閉店間際にふらっと訪れて……油断したちゃんに……あぁだめ! 私心配だわ!」

眼に涙を溜めてみゆきは何も言わずにただ立っているだけの竜にしがみつき、潤んだ瞳で竜をに助けの意見を求めていた。
みゆきの中で考える破廉恥な事情を最近行った男が目の前に居るが、当の本人は何も言わずに煙草を吸っていた。

「あんたぁ……どうしたら良いの? ちゃんがあたしの気持ちを解ってくれない!」
だって子供じゃない」
「はぁ……そうね。そうよね。<あんたの言うとおりだわ……。お付き合いする方ぐらいはちゃんと考えてくれるものね」

話の方向性がいつの間にかずれており、みゆきは涙をぬぐいながらに「ちょっとお手洗い借りるね」と残し、ハンカチ片手に一度部屋から出た。
は大きな溜息をつきながら腕を組み「みゆきさんも心配性だね」と零す。

「たかがこんなコスプレした子供を相手にするけないのに……ねぇ?」

わざと竜に問いかけるように聞けば、合った目がすぐに逸らされた。
竜には前科がある。
小さな婦警が小馬鹿にした笑みを浮かべながら竜の前に立ち、首を傾げる。

「お子様に手を出すのは立派な犯罪だよ? 知ってる?」

腰にぶら下げた銀色に光る手錠を見せつけ、目で'さもなくばこれに繋がれるわよ?'と目で訴える。
クスクスと笑っているとふいに腰を抱かれ、引き寄せられた。
小さな悲鳴を上げて見上げるとサングラスにの驚いた顔が映っていた。

「ば、馬鹿っ! みゆきさん戻ってくるってば!」

思わず小声になる。

「これはあンたの方がお似合いだ」
「へ……?」

竜の手が腰を撫でたかと思うと右の手首にひんやりと冷たい感触が伝わり、気が付いたときには左手首にも同じ感触が伝わった。
先程までぶら下がっていた手錠が自分の両手首を繋いでいるのに焦り、が竜の名前を繋ごうとしたが飲み込むこととなる。

「っん……!」

軽く啄まれる唇に思わず見開いていた目が細くなる。
気持ちのいい感触に脳が蕩けそうになり、自ら求めようとしたときに唇が離れた。
先程までの悪戯好きな少女の顔が一遍して名残惜しそうに色気を纏う女の顔になる。
少しだけ口元が上がった竜はの顎を掴み、上を向かせて囁いた。

「子供ならばそんな名残惜しそうな顔はしない」

お手洗いから戻るなりみゆきはの手首で輝くものを見て叫び、帰る道中竜はずっと説教を受けていたとか。

今日も通常運転で閉店。


2013.08.14 UP
2018.07.27 加筆修正
2019.09.17 加筆修正
2021.08.23 加筆修正