哭きの女子会

3回目

みゆきの一言から始まったこの女子会も数えること三回目となった。
お互いの事を知り、深い話も構わず語れる関係となった今。
今宵もまた笑いの絶えない素敵な夜が始まる。

*****

は視線の片隅に靡く赤いドレスが目に入ると周りの事を気にせずに大きな声で叫んだ。
カウンターでボーイと話しをしていた北乃はの声に一瞬身体を震わせた。
そして大きな溜め息をついてから呼んだ主が待ち構えるテーブルへと足を向けた。

「えへへぇ。マミさんお疲れ様です」
「……お願いだからその大きな声で呼ぶの止めて貰えるかしら」

小さく「恥ずかしいから」と付け足すとはニコニコと笑いながら「はぁい」と返事をした。
北乃は席に着く前にの隣の空いた席に目線を送る。
もう一人の参加者が来ていないことに疑問を持ったのだろう。
その疑問を解消させるためには北乃が席に着いたと同時に口を開いた。

「みゆきさんは竜のご飯を用意してから来るそうです」
「そう。あんな男ほっとけば良いのに」
「ほっとくと拗ねるんですよ」

の意外な発言に思わず北乃の動きが止まり、目が見開いた。

「……拗ねる? あの男が?!」
「はい。拗ねますよ。家での竜は思春期を迎えた高校生って感じですから」

言い終わるとはワイングラスに注がれた水を一気に飲み干した。
北乃あり得ないという顔付きでを見つめるが、その目は好奇心に輝きながら詳しく話せと訴えていた。

「ねぇ。拗ねるってどういう風に?」
「竜って携帯電話持ってないじゃないですか。だから、みゆきさんはいつ帰ってくるか解らないんですよね。それで今日は帰ってこないだろうって。みゆきさんとご飯食べてたら竜が帰ってきちゃったんですよ」
「それで?」
「まぁいつも通り無言で座ったまま……一点を見つめてて……鳴ったんですよね。お腹が」

北乃の肩が小さく震えた。

「竜はご飯食べないで帰ってきたみたいなんですけど……私がおかわりした分でご飯なくなっちゃったんです。それ言ったら室内なのにグラサンかけて……っぽ向いて煙草吸い始めちゃったんですよ! もうありえないスピードで煙草が短くなるんですよ!」

その光景を想像して北乃はとうとう堪え切れずに吹き出した。
ノってきたのかも普段の竜を真似しながら低い声で「別に俺は空いていない」と真似するものだから北乃の笑いに拍車がかかる。
眼に涙を溜めて笑う北乃とそれにつられてケラケラと笑う
遠くからかけてくる足音にも気が付かずに二人は机に突っ伏した。

「ご、ごめんなさい遅れて」

ボーイに案内されたみゆきは肩で息をしながら二人の異常な光景に首を傾げた。
涙を指で拭いながら顔を上げた北乃は困惑の表情を浮かべながら席に着いたみゆきに「待ってたわよ」と投げかける。
笑いが収まったところで北乃は近くを通ったボーイを呼び、白ワイン・赤ワイン・麦茶を注文する横でが「あのね」と切り出した。

「最近の竜の面白話をしてたの!」
「ご飯ないと拗ねるんですって?」

二人のニヤニヤした顔を見てみゆきは気が付き、「そうなんですよ」と笑った。

「あの万年仏頂面男が拗ねるなんてね。是非とも見てみたいわ」
「あ。竜がサングラスかけながら煙草吸って左下斜め45度ぐらい見たときは大抵拗ねてますよ!」
「それは要チェックだわ」

悪戯を企むように笑う二人に困ったように笑うみゆき。
話が途切れた所でウェイターがグラスを運んできて、三人の目の前に静かに置いた。
誰からともなく三人はグラスに手を伸ばし、「乾杯」の声でグラス同士を小さくキスさせる。
コクコクと喉を流れる液体。
グラスを静かに置いてからは何かを思い出したかのように口を開いた。

「あ……やばい」

ぽかんと口を開けるに北乃が首を傾げる。

「どうかしたの?」
「これ飲んで思い出した……。ビール買ってない! うわぁあ……竜の無言の視線が突き刺さるよぉお……!」

頭を抱えて震えるに呆れる北乃。
小さく「そんなのどうでも良いじゃない」と零しながら赤ワインを流し込む。
しかし、それに対しみゆきが小さく笑う。

「……と思って私が買っておきました」その言葉に勢いよくは顔を上げ、テーブルの上で組まれている白い手に手を伸ばして握りしめる。

「さっすがみゆきさん!! もうちょー大好き!!!」

照れるみゆきと御機嫌になった
この時みゆきが買っておかなければ面白い事になったのにと北乃は心の中で呟きながらまた一口赤ワインを喉に流し込む。
コツコツと近づく足音に北乃が目を向けると、予約しておいた料理を運んでくるウェイターが目に入った。

「大変お待たせ致しました。お料理の方をお持ち致しました」

さぁ、楽しい女子会の始まり始まり。


2013.09.06 UP
2018.07.24 加筆修正
2019.09.17 加筆修正
2021.08.23 加筆修正