哭きの女子会

4回目

三人の女が今宵も行きつけのレストランに集まり、会話に華を咲かせる予定であったが、今宵は一味違う。
盛り上がる前に一匹の子羊は夢の中を一人で歩き出してしまった。

*****

運ばれてきたワイングラスは3つ。
いつも各自がそれぞれの色を持つが、今回は一貫して真っ赤に染まっている。
乾杯の合図の後、赤色の液体は一瞬にして消えた。
この行為が後にじわりじわりと攻めてくる。

「っはぁ。やっぱりここの赤ワインは最高ね」
「うえぇ……。やっぱり口の中にちゃにちゃします……。安牌のビールにしておけば良かった」
「まだちゃんには早かったかしら?」
「ふんっ。お子様すぎるのよこの娘は。っていうか貴女まだ未成年でしょ。調子乗るんじゃ無いわよ。まぁ知ってる店だから大目に見てあげるけど」

口元を動かしながら口内に残った後味に顔を歪めるは近くを通ったボーイを直ぐに呼び止め、レストランの雰囲気とは少しずれた中ジョッキの生ビールを注文した。
その後にみゆきは白ワインを頼み、北乃は本日二杯目となる赤ワインを頼んだ。

「でも、ちゃんがワインに挑戦なんて珍しいけど……何かあったの?」
「えっと……あんまり深い理由はないんですけど……ね?」

いつもは素直に答えるのに対して今日は濁した。
何か裏があると感じた北乃が追求すると、は膝に載せていたナプキンをいじりながら目を泳がせた。
なかなか言おうとしないに白旗をあげよとした時、みゆきが動いた。

ちゃんの事なら何でも解るわ。何か隠しているでしょ」
「えっ……?」
「手悪戯してるのがその証拠。気がついていないかもしれないけど、ちゃんはどう伝えて良いか解らないときは手悪戯する癖があるのよ」
「えっ!? う、うそ!?」

目を点にして驚くは自分の手元に目をやり、言葉を失った。
静かに笑うみゆきは柔らかい口調で「どうしたの?」と問いかけると、はぽつりぽつりと言葉を零し始めた。
この時、北乃はの扱いをみゆきに任せて良かったと心から思ったのか、少しだけ目を細める。

「いやぁ……この前マスターに言われたんですよ」
「言われたって何を?」
「まだ日程は決まってませんが近いうちに三丁目街の雀荘経営者との飲み会があるみたいなんです。でも、ほら、私ってあんまりお酒強くないじゃないですか。そこで酔いつぶれないように今から鍛えておこうと思ってね。酔い潰れてみんなに迷惑かけるのも悪いし……折角の機会だし、お店アピールしたい……」

乾いた笑いを含ませながら話すの言葉に興味を示した北乃は前のめりになりながらに詰め寄った。

「ちょっと待ちなさい。飲み会ですって?」
「え、えぇ、飲み会です。何やら夜の新宿を盛り上げていこうって名目の懇親会だそうです」
「……そんな催し……新宿に来てから一度も聞いたことないわよ」

怪訝な表情を浮かべる北乃は横目でみゆきに視線を送る。
しかし、みゆきは北乃と同じ意見なようで小さく首を横に振った。
意味深な行動を取る二人を前には首をかしげながら飲み物を運んできたボーイからグラスを受け取り、中ジョッキに口をつけた。
待ち遠しかったその味が喉を通り、胃袋に落ちる。
ジョッキをテーブルに置く頃にはの頬が赤色に染まっていた。

「日程はまだって言うけど、そんな遠くはないわよね?」
「たぶん……来週ぐらいじゃないでしょーか?」
「女の子がちゃん一人とかだったら私は心配です」
「だいじょーぶですよ! お酌なら慣れてます!」

「へへへ」と笑いながらは身体をゆらゆらと左右に揺らして、口元を手で覆う。
一人で勝手に出来あがり始めているに対し、二人の大人が顔を見合わせながら小声で話す
「みゆき……この話、竜は知ってると思う?」
「私が今初めて知ったぐらいですから……恐らくは知らないと……」
「…分かったわ」

北乃はハンドバッグの中から携帯電話を取り出し、キーを数回押した後、耳に当てた。
腕を枕にテーブルにうつ伏せ、顔を少しだけ覗かせながら楽しそうな笑顔を浮かべるに溜息を吐いた。
トロンとした目が今にも閉じそうで、みゆきは直ぐにボーイを呼び止めて、料理の変更を依頼する。
一礼するボーイに返すようにみゆきは頭を下げ、直ぐに北乃と電話の向こう側の相手との会話に耳を傾けた。

「雨宮? 新宿の雀荘経営者による飲み会って知ってるかしら? そう。今から聞いたところなの。多分女の参加はだけだと思うけど……。日程はま分からないわ。え? んー……聞いてみるけど彼女……たった今寝たわ」

みゆきが不安そうな表情を浮かべながら北乃を見る。
ふとを見れば目は閉じ、小さく開いた口からは心地よさそうな寝息が奏でられていた。

「さり気なくで構わないわ。そう。出来そう? 分かったわ。それじゃ、よろしくね」

携帯電話を耳から離した北乃は小さくみゆきにウィンクを送る。
胸を撫で下ろしたみゆきは安堵の溜め息を漏らし、一足先に夢の中に居るの頭を優しく撫でた。
運ばれてきたワイングラスに手を伸ばした二人はグイっと煽る。

「雨宮が竜とこれから打つんだけど、その時にそれとなく飲み会の事を話すよう頼んだわ」
「……雨宮さんはこのことは知ってたんですか?」
「知らなかったみたいよ。コスプレで好感度上げてるに近づきたいだけのエロ親父達の集まりだろうって怒ってたわ」
「雨宮さんはお父さんみたいですね。とりあえず、頼もしい方達が周りに居て私は安心です」

残りのワインをお互い飲み干した所で一人のウェイターがテーブルに近づいてきた。

「大変お待たせ致しました。お料理とパンケーキの方をお持ち致しました」

さぁ、眠り姫を守る作戦会議の始まり始まり。


2018.09.06 UP 2019.07.24 加筆修正 2019.09.17 加筆修正 2021.08.23 加筆修正